やねこんれぽーと

by おかだんな


 7月3、4日の両日、長野県は日本海にほど近い小谷村で開催された第三八回日本SF大会「やねこん」に参加してきました。

 会場はホテルグリーンプラザ白馬という、ヨーロッパの山荘風の豪華なホテルで、駐車場も千台は余裕で停められると話だったので 降りしきる雨の中、北陸道を夜通し糸魚川までとばして、約八時間かけて現地にはいった。この時点で午前八時。
〈やねこんはこちら〉という猫の手マークの案内板に誘われて、国道をはずれ、どんどん山のほうへのぼっていくと、急に目の前が開けてホテルがどーんと視界にはいってきた。いや、この感動は実際にいった者にしか味わえないかも。

やねこん受付

 開会は夕方からの夜主体型なので、まずはチェックインと思ったら、受付は十時から、チェックインは午後二時から。仕方がないので軽く朝食をすませてからとりあえず十時まで車内で仮眠。十時にようやく受付すませて風呂でも、と思ったら風呂はまだ(泣)。またまた仕方がないので一旦荷物を預けて、白馬までそばを食べにいく。途中のコンビニで聞いてから立ち寄った「そば神」の冷やしわさびそばが美味。
 チェックインして部屋からホテルの裏を眺めると、スキー場の斜面に向かってペットボトルロケットを打ち上げている人影が。ただ、前夜からの雨がまだはげしく降り続けていたので、早々に切り上げてしまった。本来なら連発発射型もあったらしい(駐車場にそれらしきものを積んだ車を発見)ので、悪天候がうらめしい。斜面中腹で、旗を二本もって発射の安全確認をしているスタッフがいたが、あとで聞くとその位置がちょうど三階の女性風呂と同じ高度にあたっていて、階下のロケット企画を知らない女性入浴者からすると、非常に怪しい存在だったとのこと。

星雲賞授賞式星雲賞受賞者の面々

 そうこうしているうちに開会式。星雲賞の発表は今年はその場で行なわれた。海外長編二作(『レッドマーズ』と『タイムシップ』)受賞はとても妥当というのが率直な感想。恐怖の大王アンゴルモアも登場して会場をわかせる。大会中、この大王は会場のあちこちで参加者からさまざまな挑戦を受けていたらしいのだが、わたしは一度もその場に居合わせたことがなかった。ううむ、残念。海外SFタイトルしりとりぐらいで挑戦したかったのに。

 過密スケジュールのために企画がずいぶん重なっていたらしいが、わたしとしては二日しかない日本のSF大会は、これぐらいの緊張感と連続性があったほうが、企画者も参加者も中だれがなくていいように思う。ただ、おかげで客足がたえがちなディーラーズは、ちょっとかわいそうだったけど。
 京フェスみたいに、部屋から部屋へと企画を順繰りにのぞいていくのがけっこう楽しかったし、廊下での雑談もこういうふんいきならではのもの。

 そんな中で、じっくり腰を落ちつけてたのは「まんがカルテット」講演。なぜか座敷に低いテーブルが配置され、そのテーブル越しに椅子にかけた講演者と、正面でごろごろしながら、ときどきつっこみをいれる大森望氏の様子がおもしろい。武田さんが司会で話をまとめる役だったらしいが、前日にあったとされる打ち合わせなどまったく無視。四人は好き勝手に話を広げて司会者を困らせていた。カルテットの四人に任せて、好きにしゃべらせておくほうが、じつはおもしろかったのかも。やがて「ライブ版SFスキャナー」がはじまるからと腰を上げると、背後から「ほら、またおもろない話してるからひとり帰らはったがな」の声が。話のネタとして参加できてうれしかったりして(笑)。

まんがカルテットライブ版SFスキャナー

 部屋にはいると、すでにトップバッターの小川隆氏の話が中盤にさしかかっていた。ちょっと聞き漏らしたのだけれど、なんでもこのあいだ創元ででたシャイナーの『グリンプス』同様、濃い音楽関連のSFらしい。つづけて嶋田洋一、大森望、内田昌之、山岸真各氏による新作・邦訳予定情報など。そのなかでも楽しみなのが、内田氏の紹介されたソウヤーの最新刊。とんでもない話なんだけど、やっぱり読みたい。ソウヤーはやはり買い支えなければ。ついでにアフサンの続きはでないのかしら。
 新作を紹介するスキャナーにつづき、雨中深夜のドライブで無事到着した中原尚哉氏と柴野拓美氏を加えて、プロの翻訳家が一般のファンの素朴な疑問に答えるコーナー。事前に採っておいたアンケートなどに答えるという形で、各氏がそれぞれにこだわる点や、それほどでもない点など、一般読者には新鮮かつ興味深いエピソードが披露された。たとえば訛の訳しかたとか、禁止用語の話とか、その場でしか聞けない話など。

 この企画のあと、同じ部屋でわたしも手伝うことになっている「クイズでビンゴ」。基本的には、プロの編集者、翻訳家のゲストに解答者になってもらって、ジャンル分けしたクイズに答えてもらおうというものなんだけど、後半に趣向を凝らしてみたつもり。
 まず観客にビンゴカードを配り、問題に番号をふって、ビンゴマシンでランダムに出題。その際にでた数字でビンゴがでれば、ゲスト解答者に事前に用意してもらったグッズなどを、点数と引き換えにもらえる。つまり、観客にアピールするグッズを複数もってきている解答者が有利っていうこと。
 今回解答者にお呼びしたのは、先の企画から引き続き大森望、山岸真、小浜徹也の各氏に加えてSFMの塩澤編集長、それにやねこん実行委員長にもお願いしてでていただいた。入り口あたりで精力的に客引き(笑)していただいた三村美衣氏の尽力もあって、二十畳ぐらいの部屋は大入り満員。
 結果からさきにいうと、優勝が山岸真、準優勝が追撃およばず大森望、以下小浜、塩澤委員長となった。解答者が提供してくれたグッズを紹介すると、目玉はなんといっても大森望氏のスリランカ土産「クラークのサイン入り早川文庫二〇一〇年」。
 おおかたの予想通り、最初にビンゴをだした人がいち早くゲット。ほかにも各氏の最新邦訳作(『リメイク』やらイーガンの最新作やら)、復刊あいなった火星シリーズ合本のカラー挿し絵の色見本、『レッド・マーズ』の星雲賞受賞文庫帯、和久井映美の写真、それにやねこんのスタッフエプロンなど多岐に渡り、そのマニアライクなグッズ類はすべてが観客の手に渡りました。いまこれを読んで、その場にいなかったことを悔やんでいるSFファンは百人を下るまい(笑)。
 クイズの一例をあげると、「SWのエピソードW,X,Yの中で、ダースベイダーが親子の対面を最初にはたしたのはどの作品のどの場面か答えよ」とか「『地球の長い午後』で地球の午後が長いのはなぜか」など。まあ常識問題でしょう(笑)。解答者からはもっと固有名詞の答えを減らしてくれという要望がでていたので、次回(もしあれば)から考慮します。

 自前の企画が終わったのが午前二時半。後かたづけをしてビール片手にうろうろしてると、ホテル側が特別に二四時間あけてくれている浴場の前から大合唱が聞こえてくる。午後九時からはじまっているアニソンマラソンらしい。ほんとうなら屋外企画だったのが、この雨で場所の変更を余儀なくされたのだけど、風呂場の前というのはなかなかの条件。すんなり通り過ぎることができずに、うっかりとっつかまって翌朝五時頃まで歌っていた猛者もいたそうな。
 三時頃には疲れもたまってベッドに倒れこむなり爆睡。

ファンジン大賞発表

 朝一番に鍋爆弾の号砲が炸裂したという話だったけれど、惜しくも聞き逃したらしい。朝食をとってからクロージング。ファンジン大賞の発表などがあって、来年の「ZeroCon」の紹介映像や、武田連合会議議長(当然のーてんきの格好)からの再来年の二〇〇一年大会主催宣言など。なんでも東京近郊で「DAICON」をやるという。

 さて、本来ならここで大会は終わりになるのだけれど、わたしは同行の連中と一緒に後泊を決めこんでいたので、のんびり穂高町の大王わさび農園までドライブしてから、打ち上げパーティのメインディッシュ、〈うしの丸焼き〉を腹一杯。ほかにもけっこう残り組もいて、ずいぶん盛り上ってましたね。

牛の丸焼き

 まとめてみれば、ホテル一体型で移動も最小限ですむし、たしかに交通の便はいいとは言えないけど、車の置き場には困らないし、食事も空気もうまかったし、温泉も広くてきれいで気持ちよかったし、スタッフも実は走り回っているんだけれどそれが目立たないほど手際がよかったし、個人的には申し分のないいい大会でしたね。雨にたたられたのに、企画をうまく処理していたし。それに参加費も安くて、ほんとにこれでだいじょうぶかと心配するほど。勝因は先にも書いたとおり、みっしり濃密に組まれたプログラムと限られた大会スペース、それに少数精鋭の主要スタッフと、おおくのボランティアのおかげなんじゃないでしょうか。できることなら「やねこん2」の開催を心から楽しみにしたいと思います。
 あと、ひとつ気がかりなのはロビーで広げてた13200ピースのジグソーがいつ完成するのかってこと。


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