ホリデイズ・イン・ザ・サン

宮城博


 ・・・といえば、セックス・ピストルズの実質的に唯一のアルバム『勝手にしやがれ』の1曲目、「アナーキー・イン・ザ・UK」「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」と並ぶ彼らの代表曲である。「日なたぼっこのホリデイなんか行きたかねーよー」と、歯磨きをチューブから絞りだすようなコックニー訛りでジョニー・ロットンが喚くこの曲、平均的中流階級イギリス人のお約束行事といってもいい夏期休暇の過ごし方にツバをペッペと浴びせているわけだ。夏がくると、それでもやっぱりお日様ポカポカにはほど遠いこの国の人たちは、一斉に、ある者は南欧へ、ある者はカリブ海の島々へ、そしてある者はフロリダへと、それぞれの好みと事情に合わせて、いそいそとお出かけするのである。そうはいっても、フロリダみたいなところへお気楽に遠征できる者の数はそう多くはない。そういうゴージャス三昧が許されるのは、やはり一部のお金持ちに限られる。大方の一般ピープルは財布の中身と相談した上で、お手頃な場所で手を打つことになる。必然的に、彼らの向かう先は、ギリシャ、イタリア、南仏といった南欧に落ちつく。そのなかでも、値段的にもっとも安上がりで、ためにイギリス人でごったがえす場所、ロットンが「おまえらみんな死ねーっ!」と毒づいた、「ホリデイズ・イン・ザ・サン」の大衆向け定番コース、その代表格こそ、私とキャロラインが今年の旅行先に選んだスペインなのである。


ホテル・ミハス 私たちの赴いた土地は、アンダルシア地方の南のほう、地中海を望む、俗にいう"コスタ・デル・ソル(太陽海岸・・・トホホ)"である。海岸沿いに、マラガ、トレモリーノス、フェンヒローラといったリゾートタウンが点在している。そんな騒々しい場所を避けて、フェンヒローラから山にむかって9キロほど行ったところにあるミハスという村に1週間滞在することになった。スペイン南部には白壁造りの家が多く、ためにこの地方の村は、"白い村"と呼ばれて人気の観光コースとなっている。ミハスはそんな多くの"白い村"の代表的な存在であるらしい。旅行社のパンフによると、大勢の人の見なすところでは、アンダルシアこそがスペインであり、そのなかでもミハスは「アンダルシアのエッセンス」と呼び習わされている、とのこと。つまり私たちはスペインのなかのスペインともいうべき場所に滞在したことになる。

 宿泊したのはホテル・ミハス(笑)。判りやすくていいなあ。お客の大半はイギリス人(笑)。8割方そうだったと思う。

ミハス名物”ロバタク” 夜ついて、翌日村の散策に出かける。名物ロバのタクシーとすれ違う。行く前は、いっぺんこいつに乗ってやろう、と思っていたが、酷暑のなか、わしらの一生どうせコレやもんね的なアキラメと倦怠感を全身に滲ませて道行く姿は、どうも他人事(ロバ事、か?)とは思えず、とうとう滞在中いちどもロバタクには乗らずに終わった。

 なんと驚いたことに、こんな辺鄙なところにもスシ・バーが営業していた。「スシ・エクスプレス」というお店。カナダ人と、2カ月前に三ノ宮からやってきたという金髪のニイちゃんが寿司を握っている。関西弁爆発。ニイちゃんは以前1年ほどロンドンに住んでいたこともあり、ロックもクラブ・ミュージックも大好き。カウンターのラジカセから音楽を流しっぱなしにしていたが、ジョイ・ディヴィジョンの「アトモスフィア」が聞こえてきたときは、あまりの状況のシュールさにカタまってしまいましたよ。スペインの片田舎でJDをBGMにしながら寿司に舌鼓を打つの図・・・。

 ニイちゃんの話では、その週はミハスで1年に1度のお祭がある週にあたるとのこと。どうりで、出店やら移動式遊園地のたぐいが目につくなあと思った。えーっ、するとこの1週間はけっこう騒がしいわけ? それはないよー。

 ま、村の広場でフラメンコの群舞が見れたり、バンド演奏があったりと、フェスティバルはなかなか楽しいものだった。夜中の1時半に仕掛け花火を打ち上げられたときは、さすがにまいったが・・・。


断崖の上の街 ロンダアルハンブラ宮殿

 日帰りバス旅行で、ロンダとグラナダに、それぞれ1日ずつ出かけた。断崖の上に作られた街ロンダは、写真から想像した以上にブッとんだところだった。あれは一種の奇観ですな。10月にSF映画祭がここで開催されるそうだが、いいんだろうか、こういうSFファンを悪のりさせるような雰囲気の土地でそんなことをして(笑)。ここは断然お勧め。対して、グラダナの自称"世界8番目の不思議"、アルハンブラ宮殿は、悪くはなかったけど、あんなもんか、という感じ。でも、ここは大人気で、毎日1時過ぎにはチケットが売り切れることも珍しくないとのこと。行く人はお早めに、ね。


 1週間が過ぎて、イギリスに帰る日が来た。マラガ空港に着いてみると、そこは本当どうしたの、っていうぐらいの人の波。大半はこれから国へ帰ろうとするイギリス人の観光客(笑)。チェックインにたどりつくまで1時間半ぐらいは行列に並んでいなければならないという込みぐあい。「ホリデイズ・イン・ザ・サン」の正体見たり、って気がしましたよ。キャロラインは「キーッ、イギリス人なんか見たくない!」なんて、どこかのスノッブ日本人観光客がいいそうなことをホザいてましたよ。ジョニー・ロットンの気持ちが判る、ってか?


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