内 輪   第122回

大野万紀


 ドラクエ7をようやく始めました。何を今さらドラクエなんて、という気分があったのだけど、やってみるとやっぱり面白い。でも、時間がなくて、遅々として進みません。しかし、システムはやっぱり3のころのが良かったなあ。
 ところで、わが家もついにケーブル・インターネットで常時接続となりました。ISDNに比べて〈ものすごく〉速くなった気はしないけれど(テレホタイム中などかえって遅くなったような感もある)、時間を気にしなくていいのはすごく快適です。ついでに(ケーブル・インターネットとは関係ないけど)ぼくのPCのIDEケーブルを変えたら、ATA66にしても安定して動くようになった。結局ケーブルがぼろかったんだなあ。こっちもすごく快適で、やっと本来の性能を発揮している感じです。といっても、こんな原稿を書いたり、インターネットしたりするぶんには関係ないわけですが。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『制覇せよ、光輝の海を!』 キャサリン・アサロ (ハヤカワ文庫)
〈スコーリア戦史〉の第三巻。このシリーズはもういいや、という気分だったのだが、ある人があるところで誉めていたので、また読んでみる気になったのだ。本書は第一巻のストレートな続編である。互いに戦争している星間帝国の王子と王女が誰も知らない惑星で夫婦になって隠遁生活を送っている。その間に帝国間の戦いは激しさを増し、ついに皇帝と国王が共に戦死する事態に。主人公たちも発見され、家族は引き裂かれて、ついに最終戦争へ、というような話だ。隠遁生活を送っている上巻が、だらだらと長く、宮廷内の陰謀とか色々と面白い要素はあるにせよ、延々と退屈なシーンが続く。何だやっぱりとがっかりしていたところ、上巻の終わり頃になってがぜん面白くなった。主人公たちの孤立した平和な生活が終わりをつげ、派手な宇宙戦争に引き戻されたからだ。そして下巻では200万隻の宇宙艦隊が激突し、数十億人の住む世界が消滅していくという大スペクタクル。銀英伝みたい、というか、もっとスピード感があっていい感じ。キャラクター的にいい男は(女も)、みんな拷問を受けちゃうというすごい話だが、こつこつと作り上げた世界をぶち壊していく快感があり、なかなかに楽しかった。まあ、今回はりっぱなスペースオペラだったといえるが、それでも長すぎる。この半分でいいだろう。

『気になる部分』 岸本佐知子 (白水社)
 ニコルソン・ベイカーなどの翻訳家によるエッセイ集。ネットで評判だったし、毎日新聞に載った書評が面白そうだったので読んでみた。なるほど、いかにも目の付け所がいい、というか変てこだ。しりとりについての議論なんてのも、おおっと思うが、例えば「同い年の友人と話していて、ふいに愕然となった」というような一節。「〃同い年〃といっても、彼女は私より半年早く生まれている。ということはつまり、私がまだ粟粒ぐらいの大きさで、ちまちまと「卵割」かなんかをやっていた時、彼女はすでにその一万倍ぐらいの大きさで、人としての体裁を整えていたのである」というのには笑った。卵割してたわけですか。そうですか。思わずふきだしてしまって、電車の中では読みにくいタイプの本である。

『侵略者の平和 第一部/接触』 林譲治 (ハルキ文庫)
 ハルキ文庫からどっと出たSFシリーズの一冊。第二次大戦前後くらいの技術力をもつ惑星文明と、恒星間旅行も可能な文明との接触を描いて、とても面白くなりそうなところで終わる。全くのプロローグ編ですな。妙に和風な感覚や、文化の設定の細かさ、技術的なディテール、それにこの巻ではまだ明らかにされていないSF的な大きな設定など、SFとしての読みごたえがあり、ストーリー的にも早く続きが読みたくなる面白い小説である。しかしながら、悪い意味でのYA的キャラクター設定とその会話文が、せっかくのシリアスでハードな物語を(少なくとも一部の読者にとっては)損なう結果となっている。ある種のSFにおいては人物を描く必要はなく、キャラクターが類型的であってもいっこうにかまわないというのは、事実その通りだと思う。しかし、その場合、キャラクターたちには背景にひっこんでいてもらいたいというのがぼくの考えだ。本書の場合、キャラクターが目立ちすぎるし、その上、こっちとあっちとで同じような類型的な組み合わせが出てきて、いわばキャラがかぶりすぎている。作者はきっと設定と同じくらいキャラクターに愛情を持っているのだろうが、もっとストイックにというか、大きな流れの中の一コマとしてくらいの突き放した描き方をして欲しいものだなあ。とはいえ、まだほんのプロローグ。本書だけで判断するわけにもいくまい。いずれにせよ、今後の展開が楽しみなシリーズである。

『NAGA 蛇神の巫』 妹尾ゆふ子 (ハルキ文庫)
 ハルキ文庫でイラストのついているのはYA寄りで、ついてないのは一般向けといった区別があるのだろうか。本書はイラスト付き。現代の高校生と、旧家に伝わる蛇神の因縁がからむ話。古代史や神話への蘊蓄がこの手の話にしてはとてもあっさりしていて、ひたすら日常に寄り添った形で物語が進む。はじめはけっこう面白いと思って読んでいたのだが、しだいに疲れてきた。ヒロインの女子高校生が、おじさんにはどうにも理解できません。貞子みたいにPCのモニターから男が出てきても、ほとんど驚きもせず、お母さんに見つかったらどうしようとか考えている。これだけ異常なことが起こり、思いを寄せている彼が大変なことになっていても、すべてを自分にとっての日常の次元へと引き戻し、思考停止することで回避しようとする。彼から「論理的じゃない」「バカ」といわれても、それに居直ってしまう。こういうのって、可愛いですか? だから物語はどこへも羽ばたかない。広がってもいかず、事件の前後で何も変わらない。彼女には相変わらず受験をどうするかが重大問題なのだ。ま、そういうのが現代的なのかもね。カットバックの多用も、あまり効果をあげているとは思えないし、ぼくにとっては不満の残る小説だった。

『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド (草思社)
 ピュリッツアー賞受賞のノンフィクション。1万3千年にわたる人類史の謎と副題がついている。人類史において、ユーラシアが勝ち、アメリカやアフリカが負けたのは何が原因だったのか、というのがその謎だ。そして著者の結論は、ユーラシアが東西に長く、アメリカやアフリカは南北に長かったから、というもの(もちろんそれだけじゃないが)。要するに家畜となるべき野生動物の分布や、栽培植物の原種の存在、そしてその広がり方といった自然条件が最大の要因だということだ。なるほどそういうものだろうと思えるし、その証明も科学的・具体的で、説得力がある。話が大きいので、SF的な文明創造、世界構築にも応用がきくように思え、そういう意味でも面白い。著者の語り口は、これぞポピュラー・サイエンスという感じで、親しみがもてる(ただし、やたらと同じことを繰り返されるのは、少々くどい気がするし、翻訳か校正のつまらないミスや注意不足なところも目立つ)。とりわけ、オーストラリアやニューギニア、ポリネシアの話はとても興味深く、(ぼくにとっての)新しい発見も多い。その反面、南北アメリカについては、敗北が本当に必然的だったのかという根本のところで、もうひとつ証拠不十分な気がする。結局最大の要因は(南北アメリカでは)病原菌だったのだろうか? 時間のスケールについても、1000年は短い時間なのか、十分長い時間なのか、場合によって使い分けられているようで、突っ込みたくなるところもある。しかし、とにかく読み出したら止まらないほど面白い、知的好奇心を刺激される本であることには間違いない。

『ワイルド・レイン(1)/触発』 岡本賢一 (ハルキ文庫)
 超能力を持つ人々が政府機関に収容され、強大なエネルギーをもたらすという謎のテグタニオ空間を調査するのに使われている。その恐ろしい力を悪用しようとするやつがいて、博士とその娘を誘拐する。彼らを救うことができるのは、最強の超能力を持つが、自らそれを封じ、機関から逃れて一人暮らしている男、レイン……という話。ありがちな話ではあるし、「アキラ」を思わせるようなシーンも出てくる。だがしかし、まあこの主人公の動かないこと。かたくなに自分を封じ、最後の瞬間まで関わりを持とうとしない。耐えて耐えて最後に爆発するというのはヤクザ映画なら男らしくてかっこいいのだが、本書の場合、あんまりかっこよくない。むしろ途中から出てくるちんぴらのチコや謎のロボット(?)アレフがかっこよく大活躍するので、影が薄くなっている。何か、設定のミスじゃないのかと思ってしまう。耐えて耐えて最後にドカンというのは、本来は(?)美少女の役割でしょう。というわけで、ぼくにはちょっとノレないお話でした。

『クー』 竹本健治 (ハルキ文庫)
 秘められた超能力を持つヒロインが、さんざんひどい目にあって最後にドカンとくる。これぞ王道だ。表紙や友成純一の解説からは、かなりエロチックな小説のように思えるが、確かにそういう描写もあるものの、これはとても暗くてヘビーな雰囲気のバイオレンスSFだ。まず世界設定が暗い。環境破壊で滅亡一歩前の世界。砂漠化した荒野に分断された都市。人類は衰退し、未来への希望は失われている。そしてヒロインは子供のころ父親によって強制的に私設戦闘訓練所に放り込まれ、父の死によってようやく解放されたという身の上。ようやく手に入れたささやかな日常は長続きせず、謎の組織に追われるはめになる。助けを求めた刑事にはレイプされ、スケコマシのちんぴらにはいいようにもてあそばれる。しかし、話が動き出してからの展開にはスピード感があり、どんどんエスカレートしていく高揚感がある。救いようのない暗い話ではあっても、血と陵辱に満ちた話ではあっても、ヒロインとその恋人には、そして刑事やスケコマシにすらも、どこかストイックな雰囲気があり、読後感をさわやかにしている。で、ヒロインの秘められた能力というのがはんぱじゃない。それがフルに目覚めたとき、読者はもっとやれもっとやれと応援しているだろう。これこそ戦闘美少女! 本書は10年前に発表された小説だが、ぼくは読んでおらず、なかなかの拾い物だった。


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