続・サンタロガ・バリア  (第21回)
津田文夫


 「マトリックス・レヴォリューションズ」を見たら、本当にジャパニメーション(士郎正宗系)にますます近づいてきている。あのオリエンタル風味の音楽を含めて。しかし、白人ヒーロー・ヒロインが世界の民族を救うというのはブッシュ時代を象徴しているのか。

 かつて存在したことのないバンドが復活して、レコードの溝と記憶の中にしか存在していなかった音楽を奏でることでリアルな記憶が捏造されていきそうだ。というのが「21stセンチュリー・スキツォイド・バンド(21世紀バカ楽団ってきくちまこと博士の命名かな)」のニッポンライヴCD・DVDを見聞きして浮かんできた感想。別に小遣い稼ぎにきただけじゃないかと意見もあるだろうが。とてもまったりした演奏でエッジのカケラもない(この場合そんなものがあっては困る)んだが、ライヴ・バンドとしては一度も存在しなかったマクドナルド・アンド・ジャイルズの30年遅れのライヴとして考えれば、ジャイルズ歌うところの「明日への脈動」が生演奏されているという驚きひとつですべての疑問符が取り払われてしまうのだ。

 ケンペに対する尊敬の念はその後も高くなるばかりなので尾埜善司『指揮者ケンペ』をbk1で買ってしまう。3年前にでた本で著者は大阪の弁護士、のっけからロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』で思い出話をする著者はそういう時代のヒトであるが、ケンペの残した音源を集めることの情熱はすさまじく、オープンリールや放送用レコードはもとよりエアチェックテープまで集めている。とりあえず今後の輸入盤購入の参考になる有難いディスコグラフィーではある。
 カラヤンの「FUMONKAN LIVE」は、あるCD評で柴田南雄の「氷上を走る重戦車」という評言が引用されていて懐かしく、FMで聴いた感じもよかったので買ってしまった。ベルリン・フィルはまったくもってすさまじいオケではある。カラヤンのおかげで「合唱」が最初から最後まで飽きないエンターテインメントになっているので、プログレ・ファンにはオススメの一枚。神鳴る音楽に感動したいヒトはやはりフルトヴェングラー/バイロイトでしょう。ケンペの明るい音楽もすばらしいけど、これは聴くヒトを選ぶでしょ。 

 本の話に移ろう。山尾悠子の余韻に浸ったまま古川日出夫『サウンドトラック』に突入。完全に読む順番を間違えていた。オープニングから力業丸出しのワザとらしい設定に見えてしようがない。それでも読み進むうちにパワーあふれる子供たちの輝きにほだされはするのである。で、最後まできて、コレ終わってないじゃん? となって肩すかしを喰らってしまった。「ひつじこ」の一団はどうなるんだ、レニとクロイとトウタはどうなるんだ、かれらが交差して何が起きるのか、最後の2ページで放り出されては困るよ。

 好調牧野修『乙女軍曹ピュセル・アン・フラジャーイル』(なんちゅうタイトルや)に手を出す。なんじゃいコレは。ジャンヌ・ダルク変奏曲にしてもえらくしゃっちょっこばったストーリー展開とキャラクターだ。なんかシバリでもかかっとるんかいな、とおもっていたら元ネタがジャンヌだけじゃなくてアニメだという話がネット日記に書いてあった、ふーん。ソノラマ読者層にはどう受け止められるのかなあ。

 ハヤカワSFシリーズJコレ藤田雅矢『星の綿毛』は先行する名作SFをハローのようにしょっている作品だ。たとえば光瀬龍の未来史長編や『逆転世界』などを思わせる。残念ながらオーソドックスなスタイルでこの長さではその魅力は十分に発揮されていない。特に主要人物3人のキャラクターとその関係が書き込み不足でとても惜しい。あとがきを読んだら元々短編のアイデアをノヴェラにまで書き延ばしたというような形になったらしいが、もう100ページぐらいの肉付けが必要だったのではないだろうか。

 翻訳長編にこれはというものがないので、ようやくアミタブ・ゴーシュ『カルカッタ染色体』を読む。これはいい。読後に未来の話は何なんだ?と疑問が湧かないでもないが、モルガン語るところのマラリア奇談が面白すぎだし、クライマックスの駅の怪談も最高に面白い。全体としてはいまやほとんど内容を覚えていないピンチョンの『競売番号49の叫び』の感触を思い出した。しかしクラーク賞ってどうしてこんなに本人と無関係な話にばかり授賞するのかね。


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