新・気分はリングサイド (第6回)

青井 美香


二月二十二日(日)
お正月の二日、三日は後楽園ホールで全日本プロレス観戦が例年の定番だったのだけど、今年は諸般の事情によりなし。というわけで、一月はとうとう生観戦なし。二月も観戦予定はどうなるかなと思ったら、全日本プロレスがとうぶん武道館大会から撤退するというニュースが……こりゃ、行かなきゃならないでしょ、当面最後の武道館大会へ。
というわけで、行ってまいりました。日曜日、午後三時開始の興行なので、きょうは相方が運転する車で四歳児も同伴。うららかな春の陽気が広がる九段下界隈。もうそろそろ桜も咲きそうな暖かさ。ただちょっと風は強かったけど。

試合前:観戦歴ン十年を誇る父に観戦ポイントを聞く(?)四歳児

▽第1試合 30分1本勝負
奥村茂雄&グラン浜田&×石狩太一 対 ○アブドーラ・ザ・ブッチャー&えべドーラ・ブーチャン&ヤス・ウラノ

ちょっとわかりにくいけど、白い布を被っているのがブッチャー

 ブッチャーが元気な姿を見せてくれるだけで、もう、それだけでいいです、という感じ。グラン浜田さんも年齢を感じさせない戦いぶり。えべドーラ・ブーチャンとのツーショットは、大人と子どもの体格差がありました。

▽第2試合 30分1本勝負
平井伸和&○土方隆司 対 荒谷望誉&×保坂秀樹
 この試合、悪いけど、四歳児は退屈していたようです。相方曰く「この層が奮起しないと、全日本の未来は暗い」。

▽第3試合 全日本vsRO&D(30分1本勝負)
嵐&Hi69&×河野真幸 対 TAKAみちのく&○ザ・グラジエーター&ブキャナン
 TAKA率いるRO&D軍が圧倒……って、これだけ戦力差があれば当たり前だけど。TAKAって、マイク通りのいい声だねぇ。嵐、ひょっとして風邪? なんか、体調がすごく悪いように見えました。

▽第4試合 ハードコアタッグマッチ(30分1本勝負)
○本間朋晃&宮本和志 対 ×NOSAWA&MAZADA
リングに散らかるトラッシュボックス(ゴミ箱)の中身。「お片付けしないで、悪い人たちだね」とは、四歳児の弁。竹刀、机、ラダーとさまざまな物体をつかって、相手を痛めつけるハードコアマッチ。あんまり教育上はよろしくないもののひとつか(^^;)。
でも、モノをつかわないと力量の差が埋められないんだよね。というわけで、本間も宮本もそんなに追いこまれているとは思えなかった。ターメリックって、いいタッグチームになってきました。

 ここで、休憩。「おなかがすいた」という四歳児がおにぎりにかぶりついているあいだに、場内、暗転。次の試合が始まります。

▽第5試合 ザ・プロレス−龍魂vs職人魂(60分1本勝負)
○天龍源一郎 対 ×渕 正信
この試合、スポーツ新聞などでは「北斗が全日本のリングに上がるか否か」と騒がれていて、予告どおり天龍は北斗晶を連れて入場。リングインは和田レフェリーに阻止されたものの、北斗はそのままセコンドにつく。どうなるかな。わくわく。そして、渕のテーマ曲「トップガン」が流れる。耳をキーンとつんざくジェット機の音。一歳のとき、初めて武道館でこれを聞いた息子は大泣きしたものだが……おお、さすが四歳ともなると違います。息子はおにぎりをひたすらぱくついていた。子どもの成長は早いなぁ。
北斗はというと、途中でセコンドの荒谷や土方に竹刀の洗礼。でも、レフェリーに制止されると、意外とあっさりと退場。新聞のコメントによると、「武道館大会が当面最後だというから、ちょっと自重した」ということらしい。それにしても、女子プロレスでトップをはった貫禄はさすが。荒谷なんか、完全に北斗に位負けしていたもんね。
試合のほうは、やっぱり天龍。チョップのひとつひとつの力が違う。渕の白い肌が見る見る真っ赤になる。渕さんもがんばって、自分の職人魂を観客に見せつけたけど、最後は53歳(これ、ワザの名前です)、パワーボムと押しこまれ、ピン。

▽第6試合 世界ジュニアヘビー級王座決定戦(60分1本勝負)
○カズ・ハヤシ 対 ×BLUE−K(TAKAみちのく)
 BLUE−Kって、誰かと思ったら、TAKAみちのくなのね。テクニシャン同士の試合だから、面白くならないわけがない。ただ、はたしてどう決着がつくのか、見えない。と思っていたら、試合の途中でTAKAが左膝を負傷した模様。これで一気に試合はカズ・ハヤシのものに。試合後のマイクで「俺は2試合めだった」といいわけをするTAKA。「今度は本物のBLUE−Kを連れてくる」と息巻くTAKAに対して、カズは「本物だの、偽者だの、いっぱいいるのか。でも、次の挑戦者はカ・シンだ」とかえす。二人ともいい声してるわ。

▽第7試合 友情凄惨(60分1本勝負)
×小島 聡 対 ○太陽ケア
小島はあくまで小島のファイト。それに対して、太陽ケアは悪のファイトを展開。相方がひとこと。「ケア、休んでるあいだに太ったな」

▽第8試合 チームW−1vsRO&D(60分1本勝負)
○武藤敬司&ボブ・サップ 対 ジャマール&×ディーロウ・ブラウン

リング内で両手を広げているのがボブ・サップ

いまじゃ、四歳児でも知っているボブ・サップ。入場シーンではひときわ歓声が上がる。なにせ、アリーナ席ではそのとき、携帯電話でサップを撮ろうという人たちで、ディスプレイの明かりが点々と見える始末。でも、そのサップの入場シーンを凌ぐ歓声が上がったように思えたのが、武藤の入場シーン。白いガウンを羽織って、武藤が花道に登場すると、周囲がぱあっと明るくなる。サップは旬の花、そして武藤には時代を超えた華……そんなフレーズが頭をよぎる。
試合のほうも、終わってみれば武藤ワールド。最後、武藤がディーロウ、サップはジャマールにダブルでシャイニング・ウィザードを決め、さらに合体技シャイニング・インパクトをディーロウに見舞って、決着。いやぁ、いいものを観せていただきました。

▽第9試合 3冠ヘビー級選手権試合(60分1本勝負)
○川田利明(王者) 対 ×橋本真也(挑戦者)
セミの歓声もすごかったけど、メインはひょっとしてそれ以上。川田に投げられた黄色い紙テープの量は半端じゃなかった。
プロレスのレスラーとしての能力って、どれだけ試合のときに観客を自分に感情移入させられるかにあるのではないか。だから、逆説的にいうと、勝敗は二の次でもいいんじゃないかとすら思う。橋本も川田も、自分の持っている歴史を観客に提示し、観客の思い入れを誘うことにかけては屈指の能力の持ち主。この二人が戦ったのだから、やっぱりいい試合になりました。橋本が肩を負傷してなければ、もうすこし違った展開もあったかもしれないし、次の長州戦のことがなければ、フロントの中村常務が悲壮な表情でタオルを投入することもなかったかもしれないけど……。

ところで、四歳児がいちばん感動したというか、興味をもったのは、武道館の館内から出るときに解体していたリング。「あれ、なんで壊してるの? なんで壊してるの?」とうるさい。「ああやってバラバラにして他の所へ持っていくんだよ」といちおう説明したけれど、彼にとっては、まだまだ試合よりもこういうもののほうが面白いんですね。


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