続・サンタロガ・バリア  (第30回)
津田文夫


 BUMP OF CHICKENの新アルバム「ユグドラシル」。ヴォーカルが描いた大樹の鉛筆画(?)がカヴァーだが、地味だ。楽曲も「オンリー・ロンリー・グローリー」をはじめとするシングル曲は怒濤のポップだけど、あとは地味目が多い。「乗車権」や「fire sign」あたりは洋楽的なサウンドがおもしろい。
 暑くてステレオの前に座ることも畳の上で本を読むことも難しいんだけど、かろうじて目を通したのが以下の話。

 田中啓文『蹴りたい田中』。編集側の仕掛けはちょっと鬱陶しいが、ここの短編はいかにも田中啓文の得意とするものばかり。笑わすのもあればあきれるのも多いがどれも田中味ははっきりしている。「赤い家」「地獄八景獣人戯」「怨臭の彼方に」「蹴りたい田中」と続く後半が印象に残る。よくやるよ。

 思い出したように時折筒井康隆の文庫化作品を読むんだが、今回は『恐怖』。さすが筒井康隆、スーっと読ませてくれる。うまいなあと思うところも多々ある。しかし『敵』ほどの凄味はない。ま、作品を書く方向がちがうのだからしょうがないけれども。登場人物中「薔薇の少女」はちょっと変。

 第5回日本SF新人賞受賞作ということで『夢見る猫は、宇宙に眠る』。悪くはない。でもそれ以上のものがほしくなる作品。グリーン・マーズにあまり説得力がないのは残念だが、男女関係はけっこうおもしろい。火星側に寝返る人物をはじめ脇役がやや薄っぺらいのが難。こういうのはライトノベル的なのだろうか。

 清水マリコのMF文庫J第3作『ゼロヨンイチロク』。相変わらず変な設定の少年少女のドラマを作っている。作品というレンズを通して見える清水マリコ像に惚れているので、文章を読んでるだけで嬉しい。本来の読者層たる若者がついてくるかどうかはわからないけれど。今回は女の子が主人公なのだが、こういう文庫て若い女性も読むのかね。

 ハヤカワSFシリーズJコレクション、坂本康宏『シン・マシン』。取っつきの悪さに最初のうちは前に進まない。
 で、殊能将之『キマイラの新しい城』に浮気。うまいなあ。さすが「名古屋の天才」(いつまでいっている)! 今回はエドモンド・ハミルトンの話からとってきたような仕掛けで、下卑た社長に乗り移ったという中世騎士の幽霊が最高。狂言回しの石動戯作がかすんでしまう。だからバランスが悪いんだけど、そんなことはどうでもいいほどおもしろいので文句はない。売れて当然だね。
 『シン・マシン』に戻ると、章のタイトルが敵方のニックネームとわかるあたりからようやくおもしろくなった。古くは「村雨一族」ちょっと前なら「黒の十傑」、最近は「トライガン」あたりを思い起こさせる代物だったが、ちょっとひねりが加えてあって現代のSFらしさを演出している。ムダな文章というのか、いわずもがなのことを書いてしまう傾向があるので、それがなくなればもっといい作品になったろう。

 ということで、最後はジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』。さっき読み終えたばかり。今年読んだ翻訳の中では最高の部類だろう。ただ解説やらSFMの特集記事を読んで、ウームそこまでの作品なのか、という反発が起きてしまう。基本的には70年代文化人類学SFしかも典型的「オービット」スタイルの作品という印象があるんだよなあ、すくなくとも表題作には。とても仕掛けの多そうな感じもするし、今となれば文学系とくにマジック・リアリズム系作品との印象も強い。3編のなかでは表題作が一番読みやすく(フツーにSFだから)、後になるほど読みにくくなる。最後の「V・R・T」なんて南米のどこかの小国で起きた話みたいな政治状況も窺わせるが、それは表面的な語りに過ぎないのだろうか。ま、なんといおうとこれが日本語で読める時代になったのはいいことだよねぇ。


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