みだれめも 第177回

水鏡子


『鏡の森』タニス・リー(産業編集センター) 総合:★★☆ 作品性3 興味度2 義務感3
『ブギーポップ・バウンティング:ロスト・メビウス』上遠野浩平(電撃文庫) 総合:★★★ 作品性3 興味度4 義務感3
『マリア様がみてる:妹オーディション』今野緒雪(コバルト文庫) 総合:★★★ 作品性2 興味度2 義務感1
『A君(17)の戦争 8』豪屋大介(富士見ファンタジア文庫) 総合:★★★☆ 作品性3 興味度4 義務感3
『MURAMURA』三島浩司(徳間書店)総合:★ 作品性1 興味度3 義務感1
『ライトノベル・データブック』榎本秋・編著(雑草社)総合:★★★☆ 作品性4 興味度4 義務感3
『COMIC新現実 vol.4 特集・白倉由美』(角川書店) 総合:★★★★ 作品性3 興味度3 義務感3
『SIGHT 究極のマンガ200冊』(rockin'on) 総合:★★ 作品性2 興味度2 義務感2
『読むのが怖い!』北上次郎・大森望(ロッキング・オン) 総合:★★★ 作品性2 興味度4 義務感1

 こんな評価方法を考えてみた。5点法である。『鏡の森』を読んでいて、作品の持ついかにもタニス・リーといった濃厚な世界を味わい深く読み進めるうち、描き出される世界が自分の読みたいものとちがうことに気がついて、読むテンションがさがってしまった。読みたいタイプの作品だったら流してしまえる不満なんかもちょっと強めに感じた気がする。そのあたりこんな感じで分けてみた。

 「作品性」は、文章の味わいとやプロットの完成度などいわゆるふつうの作品評価。『鏡の森』の場合だと、官能性の強いタニス・リーの文章的な持ち味は充分発揮されているけれど、「白雪姫」とギリシャ神話の「ペルセポネーの物語」(ほかにもキリスト教説話なども使われているのかもしれないがよくわからない。ヘパエスティオンとかアルパツイアといった名前にも由来がありそう)を絡めた骨組みは、着眼の割に知悉した話がうまく重なり合って結実する力強さに欠けている。出してきたネタだから一応帳尻を合わせましたといったところで、ややおざなり。タニス・リーとしては、やや物足りない。

 「興味度」は、この本を読みたいと思った気持ちのレベル。ただし、最初に書いたように、読んでる途中で方向性がちがうと思った場合は、そもそも読みたいと思ったものとちがっていたということなので、そちらのほうの興味度になる。

 「義務感」は、タニス・リーの小説だからとか、シリーズものの続刊だからとか、ジャンルの話題作だからとか、SFファンだからとか、自分の立ち位置その他の理由で、読んどかないとしかたないと自分のなかで抱えている思いのレベル。シリーズものや全作読破中の作家というのは、読み始めたら腐れ縁という気持ちがあるので、基本的に義務的評価は2になる。評価の高いシリーズは、出たら、読まねばという気分が強いので、義務感3になる。義務感の高いものほど、読むことへのプレッシャーが高まり、読後感(総合評価)が下がり気味になる。読むのが惰性になっている『マリア様がみてる』の場合、逆に、義務感、興味度、作品評価とも以前より落ちているぶん、なじみの顔ぶれの日常は緊張感なく楽しむ連ドラ気分で、読後感(総合評価)は★★★を維持する。どう考えても『鏡の森』より格下なんだけどね。義務感5の作品は、さすがに全部読むけれど、ここだけの話、義務感4、興味としても3以上、作品評価も4になると思うのに読めてないのがそれなりにある。

 ひさしぶりの<ブギーポップ>には、他のシリーズより、期待度が高い。そのぶん要求レベルも上がってしまう。ここ最近の上遠野作品には、小粒でパッとしないアイデアに、作品全体が寄りかかり、支えきれずに世界が萎縮したり大雑把に見えたりするところがある。本書も例外ではなく、単独作品としての切れ味に欠けるのだが、織機綺を中心に常連メンバーに再会できる安心感が単発作品としての物足りなさを(すこし)救っている。シリーズ全体への思わせぶりの伏線も少しずつ前に進んでいるようで、とりあえずまだ先は楽しみ。

 『めった斬り』の大森発言があとがきで思いっきり嫌われている『A君(17)の戦争8』。作家・作品に勢いが出てきている。長篇の一部分ということで、作品評価3でお茶を濁したけど、気分的には4に近い。ほとんどスケールアップした『大魔王作戦』で、爆裂する軍事・歴史講釈も小説を読む妨げにはならず、ちゃんと作品世界の厚みを増している。

 『ライトノベル・データブック』は少年系ライトノベルのデータブック。読んでる量はともかくとして、大枠の出版状況をつかめているつもりの人間には、ビブリオ完備のレーベル別・作家別・シリーズ別の立体構成はありがたい。しかし、『めった斬り』といい本書といい、<ライトノベル>系の研究本は、ジャンル外読者が手を伸ばしにくい表紙だと思う。それでいて、その一方で、「原石の宝庫である各プロパー作家の紹介枠」などと、ジャンル外読者を想定した、作家にも読者にも<失礼な>表現があったりするのはちょっといかんのではないか。

 吾妻ひでおの連載で、しかたなしに買い始めた『COMIC新現実 vol.4』予想以上に読み応えがあった。吾妻ひでおも快調だし。みなもと太郎も面白い。心と心が通じ合うコミュニケーション過剰の「補完計画」的世界と嫌悪し断罪する、白倉由美の少女マンガ論も納得のいく視点。その延長線上に捉えられたライトノベル文化というのも優れた切り口だと思う。ためになった。

 比べて著名研究家の対談を並べて60年代から90年代までのコミック・シーンを回顧する『SIGHT』(北上・大森書評対談の付録つき)は退屈。このてのボリュームのある特集号はつい買ってしまうのがくせなのだけど、読み流すだけに終わることが多い。それにしても、こちらのこだわりの強い『はみだしっ子』や『パーム』が、このての特集で大きくとりあげられたのはほとんどみたことがない。

 そういえば、長い充電期間を経て再開された『パーム』復活第一作。以前と変わらぬタッチでとりあえず安心した。

 『読むのが怖い!』は、大森対談書評本第3弾。雑誌連載コラムを本にしただけという、ちょっと芸のない本になった。季刊雑誌だから、4回に1回年間回顧特集が出る。単行本の構成としてはすごく中途半端。それに200冊というのも、前の2冊と比べると、たったというしかないうえに、同じ作家がくりかえし登場する。性格のいい北上次郎と性格の悪い大森望の性格対比とか、読み方のちがいとか、読みどころはそれなりにいっぱいあるけれど、<人>を読むことが楽しいこと自体、ガイドブックとしてはものたりないということでもある。、前の2作が、一定の狭い土地に折り重なるように実った目のくらむような大量の本を、鮮やかに交通整理していく作品だったとすれば、今度の本はだだっぴろい不毛の荒野にぽつりぽつりと咲いた花を、軽く味わったり、種の飛来した出自を探ったりしているみたいなもの。まあ<ふつう>の本です。しかし酒井順子の書評がなんで「ぼくの知り合いの、関西にいる五〇代独身男性たちは」なんて話になるのかねえ。

 ちなみに3冊の評価をならべると、

『文学賞メッタ斬り!』豊崎由美・大森望(PARCO出版) 総合:★★★★★ 作品性5 興味度4 義務感3
『ライトノベル☆めった斬り』三村美衣・大森望(太田出版) 総合:★★★★☆ 作品性4 興味度5 義務感4
『読むのが怖い!』北上次郎・大森望(ロッキング・オン)  総合:★★★   作品性2 興味度4 義務感1
 ということになる。


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