続・サンタロガ・バリア  (第46回)
津田文夫


 クリスマスも意識からほど遠くなってしまったこのごろでも、クリスマスにキーボードをパコパコしなくてもよかろうにとは思うなあ。
 クリスマスを前にSF系日記に登場した森見登美彦の文章を読んでいると、相変わらずな芸を披露していておもしろいんだけど、こんなところで芸売ってていいのかという心配も。まあ、書いて減るもんではないことは確かだが。
 今年もあと一週間足らずということで年間ベストを出した人も多く、今日はオールタイム・ベストを挙げてた人も多かったなあ。自分のベストはもう少し読み残しを消化してからかな。

 12月新刊にめぼしいものがないこともあって、まず読んだのが文庫落ちしたレイ・ブラッドベリ『塵よりよみがえり』。SFマガジン1月号で特集の年表を読んでいたら、急に読みたくなった。乗り気で読んだのに、残念ながらいまひとつピタッとはまらない連作短編集になっていた。ここ十年で最愛の短編集の1つである『二人がここにいる不思議』に入っていた短編もその輝きが失せて、普通の短編に見える。これはブリッジで無理矢理つないでいるため、単独作品で読むと重層的な記憶(おぼろげな記憶の集まり)がいい具合に作用するが、直接的なつながりの中で読まされるとむしろ失望を感じさせるということなのだろう。残念。

 90年代の作品なのにもはや懐かしい感じのチャールズ・シェフィールド『太陽レンズの彼方へ』。エンターテインメントSFとしては本当に普通に良くできている作品群。文学的気取りの欠片もないけど楽しく読んで、SFでちょっと古めかしくて、特にほめるようなものでもないけど悪くない。ジョージ・R・R・マーティンのような達者さは望めない代わりに一応ハードSFとしての結構をなしている。たぶん終わってしまった時代のSFなんだろう。

 読みたくもないけれども読むことにしたので読んでみたロバート・J・ソウヤー『ハイブリッド−新種−』。読みやすさは相変わらずでありがたいが、メインストーリーはこれっぽっちも面白くない。しかし、暴力性行が遺伝するとして断種に怯えるネアンデルタールは玄孫までたたる近世キリシタン御法度みたいだなあ。中世日本の戦いでは同族が血筋を残すため、よく互いに双方に分かれて闘っていたことも思い出す。

 ぬか床=ソラリス説が気になって梨木香歩『沼地のある森を抜けて』を読む。いいなあ、これ。山尾悠子が生真面目な幻視者で川上弘子は幻想体質がモノをいう天然ファンタジスト、そして梨木香歩はSF体質なファンタジー作家というところ。SF的論理に近い形でファンタジーのクライマックスが造られているけれど、そこに惹かれるわけではなくてそこに行くまでの話の運びにおもしろさが宿っている。ぬか床を島へ持っていかずにもう少し話を続けて欲しかったかな。『家守奇譚』も読んでみようか。

 秋山完久々の新作『プリンセスの義勇海賊(シュバリエ)』。いつものようにのんびりと始まるけれども、プリンセスが出撃してからは突っ走る突っ走る。メイン・キャラクターにもかなり痛い思いをさせてクライマックスへ持っていくところが今回の見所かな。SFのアイデアはお手のモノ、ところどころにあらわれる古いギャグも健在だ。贅沢を言えばヨミ・クーリエ社の戦闘尼さんをもうちょっと早く出して欲しかった。それにしてもソノラマ本は地方の書店に入らない。このノベルズ判はbk1に注文した。

 では、良いお年を。 


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