みだれめも 第195回

水鏡子


■家から歩いて10分足らずにある高校の甲子園出場が決まった。不覚にも出場決定翌日まで気づかなかった。新聞もTVも満足に読んでいない見ていない世情にうとくなっている水鏡子です。(先日初戦敗退しました)

 では本を読んでいるかといえばこれまたしばらくご無沙汰気味。なにをやっているかというと、2階にある本数トンの1階書庫への移動作業であります。

 書庫が完成しました。7月22日に完成し、3週間。完成当初の収納構想から微調整を繰り返し、そのたんびに段の幅を修正し、クーラーもない中汗みずくの作業で収納可能冊数の6割くらいを運び込み、なんとか収納計画の概要が確定しました。自慢と見せびらかしとこれから書庫を検討しようとする方への参考となるよう詳細な現場報告を行います。

 まず、全体量。すべての棚を埋め尽くした完全収納状態で本だけで6トン。文庫本だけなら25,000冊入る。これに書庫本体の重さを1トンと見て、床にかかる重量を7トンぐらいに見ています。将来的には通路部分や書庫天井に余分なものを運び込むと思うので、設計では6畳一間で8トンに耐える床を考える必要がある。

 今の家ではこれが限界だけど、できれば2間ぶち抜きたい。通路空間を減らせるから6万冊が収納可能だ。これだけあれば余剰空間が大量にできて好き勝手に編集できる。本をすべて1列で置くことだって可能になる。

 移動書庫が5基(4基は文庫・新書が片面に2列ずつ収納できるもの、1基は雑誌が同様2列収納できるもの)。移動書庫の奥の壁際全部を使って固定式の書架を配置した。固定式書架には、単行本の2列配置を予定していたのだけれど、少し困難な状況になった。長いほうの壁全体を埋め尽くして作った書架(幅340p)が1基の移動書庫に収まってしまう。比較するものが見えるだけに移動書庫の威力を改めて実感した。

 当初、棚ピッチは5pと聞いていたが、実際には2.5cmピッチだった。おかげで諦めていた文庫用書架の10段配列が可能となった。

 ただし、文庫本用の棚にするとはじき出される本が出てくる。効率収納を試みた方はよくご承知の話だけれど、徳間デュアル、ハヤカワEpi、それに昔々の岩波文庫など版型が微妙に大きい文庫がこの棚に納まらないのだ。現時点では新書本用の棚に置くつもりだけれど、じつは一応裏わざがある。書架用の棚の厚みは2cm幅で、奥行の短い(23p)ものは板の四方を2cm分折りこんだだけなので、15pの棚といっても奥のほうは17pほどになる。出し入れするときひっかかるのと押し込んだとき本の先っぽが折りたたまれた棚板部分に推しつけられるのを気にしなければ収納することは可能である。問題はぼくが原則2列配列を考えているため、たとえば徳間デュアルを固めるようなレーベル別収納を行わないと、前列の文庫本の列がでこぼこになることである。見苦しさもあるけれど、本の腹の特定部位に偏った圧迫力がかかってゆがんでしまうところが気になる。

 最上段は、天蓋部として6pの余分がある。下段から順に文庫仕様で段を作っていくと、最上段は奥の方で24pの段ができる。天蓋が邪魔をして、前列には文庫か新書しか並べられないけれど、奥の列には単行本を収納できる。(じつはB5判<SFMなどの雑誌サイズ>が置けるのだけど、そうすると奥行きが短すぎて2列配置ができないのだ。)

 これが相当ありがたい。今回の書架は、文庫・新書・B5雑誌を2列ずつ収納するには最適なのだが、一般単行本の収納空間に難儀している。壁際の固定棚の収納可能量が予想以上に少なくて、翻訳本と文学関連ノンフィクションだけでもすべて収納が難しい状態なのだ。この最上段を活用することで500冊くらいの単行本を固定棚から移動させることができる。日本作家作品の単行本は、すべからく書庫搬入を断念した。アンソロジーだけはなんとか文学関連ノンフィクションに含めようかと思っている。ほんとうは、文庫と単行本は連携を図る必要性から同じ空間に置くべきなのだが、余地がないのだからしかたがない。『北方水滸伝』は1階書庫に、『揚令伝』は2階書棚にといった、悲しい事態が生じている。

 いろんなものを一堂に会させて全貌を見てみたく、そのひとつに、コバルトや電撃、スニーカーが全部並んだところを見たいというのもあってがんばったのだけど、さきざき日本作家作品は書庫から総引上げもありえそうだ。

 構成の細部に移る。

 まず日本作家の文庫本(ただしそのうち半分以上がライトノベル)。書庫1基(bP)裏表40段80列。(1段の基本単位は幅90pである。) 内4列は前述のように翻訳作品単行本に充てる(以下の棚についても同様)ので、76列。1列だいたい50冊強の収納となるので、MAX4,000冊というところ。続く1基(bQ)の片面が日本作家ノベルズ本。18段34列で1,700冊検討。残る片面と次の1基(bR)が翻訳作品の文庫本。60段114列6,000冊の収納予定。

 文庫本の配列は作家ABC順にした。日本作家は同じくあいうえお順。レーベル別にしたほうがきれいなのだけど、前後列の2列配置にする場合、見えない後列に何があるかを把握するには、連続性の高い作者名ABC順にするほうが便利である。別名を使用している場合はわかるかぎりひとつにまとめた。リチャード・バックマンはスティーヴン・キング、ジャック・ヨーヴィルはキム・ニューマンというふうに。風評をたよりに、麻丘ちあきは「か」の棚、豪屋大介は「さ」の棚、荒神伊火流は「も」の棚においたりしている。ジョン・クリーブはシルヴァーバーグであってたっけ?

 若干悩ましいのが作者の変わるノベライゼーション。スタートレックは作者にかかわらず基本的にブリッシュの尻尾にくっつけたけど、グレッグ・ベアやマッキンタイアはどうしよう、などと瑣末なことに楽しく悩んでいる。

 これまでは、SF・ファンタジイとミステリその他のリアル系とに分けてたのだけど、今回はすべてひっくるめてのABC順にした。ファンタジイ要素が配色されたミステリやロマンスがけっこうあるのが一因だけど、バラストとしての効用もある。万一満杯になったときには純ミステリあたりから順に間引いていけるから。

 4基目の書庫の片面はペーパーバックで埋め尽くした。18段34列で2,000冊。読んだ本は2冊しかない。片面過不足ほとんどなくきれいに詰まってしまって困っている。
 あきらかに、家の中にまだ残っているペーパーバックがあるのだ、相当量集めたはずのフィリッツ・ライバーの塊が出てこないのだ。出てきたらどこにいれたらいいのだろう。既訳のある本を抜いたら、50冊くらいまでならなんとか詰め込み可能かなとか思ったりしているのだが。

 あるはずなのにみつからない本はかなりある。空間的余裕が十分あるので焦ってないのだけど、山田風太郎、西村寿行、三好徹の「天使」シリーズなどの文庫本が出てこない。2階の空いた本棚にコミックや各種単行本を詰めていったらそのうち出てくるはずだけど。

 イギリス本やら50年代のいくつかのペーパーバックは新書サイズより微妙にたけが高い。さいわいなことに数がかなり多いので、後列に押し込んでも、前列のでこぼこはそれほど大きくならない。

 4基目の残り片面はワイルドカード。岩波や中公の新書本、エッセイ・文芸・人文科学系の文庫本等を中心に、2,000冊ほど収納予定。

 最後の1基が雑誌用。SFM、SFA、奇想天外、HMMが1箇所に固まると、これはやはりなかなか壮観。全体の4分の1をSF・文学論系、書評・出版系単行本用に明渡したので、このサイズのすべての雑誌を並べるわけにはいかなかったが、それでも雑誌2,000冊と単行本500冊の収納が予定されている。

 合計20,000冊超。いろいろいじくりたいので、実質収納は15,000冊くらいになるでしょう。

 単行本2列配置の予定だった固定棚の計算が狂ったのは、移動書庫のせいである。
 前列の本が3分の1ほど棚板からはみ出すのは想定済みだった。
 これまでどおりそれで問題ないと思っていたのだが、前列の本が埋まりきらないときなにかのはずみで倒れた本が棚から落ちることがあるのだ。落ちると書庫のレールに巻きこまれる可能性ができてしまった。少し収納を減らさなければならなくなった。

 それにしても。
 家の中はむちゃくちゃです。
 もともと、物置き用に使用していた部屋でもあるので、冬物家具をしまいこむ場所がない。それ以前にこの部屋に入っていた家具類が吐き出されたまま身動きがとれない。おまけに、これまで本棚以外で本を収納していたユニットからボックスが大量に生じることになった。今までは本が入っているし、置いてる場所も散らばっていたのでわりとあたりまえの風景だったのだけど、空ボックスが80個も1箇所に集まるとちょっと異様な光景だ。
 家のなかできれいなところは書庫だけです。
 困ったものだ。 


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