続・サンタロガ・バリア  (第77回)
津田文夫


 耐えられんと思っていた暑さもなんとなく収まったようで、やはり季節はめぐるものだと実感する今日この頃。
 恒例のNHK交響楽団地方公演があったので、真夏のクラシックを聴きに行った。曲はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とシベリウスの2番の交響曲。夏向きといやあ夏向きなプログラムだけど、指揮者の山下一史がちょっと力こぶつくりすぎで、あんまり涼しくない。ソロイストのイタリアの青年が繊細なピアニズムの持ち主だっただけに、オケに埋もれるフレーズがもったいなかった。アンコールはピアニストとオーケストラともにシベリウスのあまり知られてない小品だったけれど、どちらもいい感じだった。
 ようやくステレオが聴けるようになったわが四畳半で聴こうと、キース・エマーソンが久方ぶりに出したアルバム『キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ』を買った。一回聴いた限りではアメリカ人ギタリストに引っ張られてエマーソンの味わいに乏しい。日本では歌謡曲として大ヒットしてしまったホルストのジュピターのメロディをいまさら引用されてもなあ。でもアルバム後半のヒナステラのバレエ組曲「エスタンシア」のカヴァーは、ELPの名インスト曲「キャナリオ」で引用したあのフレーズが聴けて嬉しい。ああ、そういやだましだまし20年近く使っていた真空官入りCDプレーヤーがついに臨終された。5万円で買ったDENONのCDプレーヤーも10年選手でトレーの動きやピックアップの動作がかなり怪しくなっている。冬には買い換えたいが許してもらえるかなあ。

 前情報もなくまったく知らない作家の作品を読むことは滅多にないが、カリン・ロワチー『戦いの子』はそのひとつ。なかなかハードな状況で始まる少年の成長物語で、予定調和かと思っていたら結構シビアな状況が延々と続いているのだった。結末も少年がくぐり抜けてきた体験を反映していて、ご都合主義なところもあるけれど、ジュブナイルSFとしてはほぼ満足な出来。

 まったくと言っていいほど内容を覚えていなかったM・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』は、山岸真の名調子の訳のおかげもあって大変楽しく読めた。この内容にこのタイトルは本当に素晴らしい。今回ビックリしたのは、主人公の反抗期のバカっぷりが見事に表現されていること。コーニイがこの主人公にどれだけ自分の少年時代を反映させているかわからないけれど、オヤジ目線でこの主人公を追いかけていくと面白いのだ。結末の大仕掛けには疑問な点もあるけれど、あれがあってこその夏の輝きだからなあ。

 小川一水『フリーランチの時代』はコメディがかった3編とシリアス調の「Live me Me」そして『時砂の王』のスピンアウトの5編からなる短編集。基調は表題作のあっけらかんとした異星生物の人類侵略ものにみられる軽いタッチだ。侵略される人間があまりに脳天気に侵略者を受け入れてしまうのは、乗っ取られた人間が丸ごと再構成されているせいなのか。明るい人類破滅ものだね。小川一水は高い水準で様々なアイデアのSFが書ける作家だが、ちょっといい人過ぎるかも。

 ハヤカワSFシリーズJコレに入っているのがイマイチ納得いかない吉田親司『マザーズ・タワー』は、道具立てはSFそのものなのに、SFを読んでいる気がしない変なシロモノ。物語中のあちらこちらに有名SFのタイトルなどが出てくるし、もともとが軌道エレベーターが必要だからという話なので、作者のSFファンぶりはうかがえるものの、本来あるべきセカイ感覚みたいなもが感じられないせいか、その物語には説得力がない。文庫で出していたらまた違った印象になったかも。作中に「武人の蛮用に耐える」なんてセリフが出てきたが、この作者は架空戦記モノも書くということで納得。

 休刊号だったVol.6 Side A&B を読んだ時点で次はもう買わないといっていたのに、筒井康隆のラノベが載っているということで買ってしまった『ファウスト』Vol.7。佐藤友也の鏡家サーガ以外の小説を読み終えた。その筒井康隆『ビアンカ・オーバー・スタディ』は、いとうのいじ(女性だったんだね)のイラストということもあって、ラノベのパロディみたいなシロモノ。まだ始まったばかりという印象だけれど続くのかなあ。その他の各作家の短編は以前の『ファウスト』の印象を変えるモノではないので、基本的には今までの傾向を再確認するためだけに読んでいるような感じがある。西尾維新「新本格魔法少女りすか」はフォーミュラを明らかにしながら読ませてしまう力業を相変わらず発揮しているし、力はやや弱いものの上遠野浩平の兵器少女モノ「オルガンのバランス」も相変わらず。錦メガネ「コンバージョン・ブルー」は陰惨な妊娠小説でムードたっぷり、北山猛邦は学園探偵モノのバラバラ事件の推理小説「磔アリエッタ」、パズラーに興味がないのでこれは面白くなかった。小柳粒男「シャカイに降り立つおかっぱ頭」は初めて読む作家だけれど、(異界での)戦闘行為のときに気になった前髪を、毎回同じ美容室のカリスマ女性美容師に整えてもらう魔法少女(?)の話。新鮮といえば新鮮だった。佐藤友也は鏡家サーガを読むまで保留。


THATTA 244号へ戻る

トップページへ戻る