岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。


 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

 今月はブックレビューです。 

Amazon『ハイカラ神戸幻視行』(神戸新聞総合出版センター)

西秋生『ハイカラ神戸幻視行』(神戸新聞総合出版センター)



装釘:戸田勝久

 本書は、西秋生名義で書かれた最初の著作になる。神戸新聞の夕刊に隔週連載後、単行本化にあたって大幅加筆修正されたものである。西秋生がこの名前でデビューしたのはネオ・ヌルの時代になるので、もう30年以上の歴史がある。以来、「SFアドベンチャー」や「異形コレクション」などにホラー系の作品を発表し、今日に至っている。著者は専業の作家ではない。長年広告代理店に勤務し、現在は大学で広告ブランド論を担当している。

 幻想的な神戸を描くイナガキ・タルホ(稲垣足穂)、『細雪』など多くの作品に神戸を選んだ谷崎潤一郎、今でも少しも古びない斬新な詩を吟じた竹中郁、探偵小説発祥の地を巡る江戸川乱歩/横溝正史、消えていく神戸の中の異国に拘る小松益喜/中山岩太、その他、神戸を語ったさまざまな作家/芸術家たちの足跡。ここでは1920〜1941年の戦前に存在した、モダニズムの/贅沢で異国風の神戸が詳細に述べられている。神戸は“日常”の街ではないのだ。

 これまで多数の作品がありながら、著者に単独の単行本がないのは不思議だった。本書は、小説の作品集ではない。その一方、本業のブランド論とは近しい。著者が長年バックボーンとしてきた戦前の作家たちと、故郷である神戸との関係に踏み込んだ好著といえる。私的なことであるが、評者と著者とはネオ・ヌル以前、深夜放送の投稿時代から名前を知り合う仲ではある。ただし、著者はミステリ/ホラー創作系、評者はSF書評/翻訳系という“派閥”の違いもあって、歓談するのも10年に1度程度の間柄だ。評者は大学卒業まで神戸で育ち、今では外での生活がその期間を超えた。しかし、何度か住処を変えながら、既に失われた神戸/本書の幻視する神戸を懐かしむことはある。残念ながら、現在の神戸は150万の人口を抱えながらも、大き目の地方に過ぎず、“日本唯一”の都市ではなくなっている(過去には、神戸にしかない文化が多数あった)。神戸に在住する作家として、著者には唯一無二の小説も期待したい。

 

 

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