岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。

 大変遅くなり、年を越えてしまいましたが、恒例のTHATTA2009年SFベストの発表です。2008年11月から2009年10月まで、採点者2名以上で1位から8位まで13作(同率含む)のレビューをまとめています。

 例によってSFマガジン暦が対象範囲です。採点表は下記、筆者がTHATTAのレビューを読んだ印象からつけているため、絶対値というより参考値と考えてください。レビューの原文は、各要約(文責は評者)の末尾からたどってください。評者のものはまずblog版に飛ぶので、そこの「もっと詳しく」からHP版に飛んでください。

2009年採点表

Amazon『あなたのための物語』(早川書房) 2009 Best SF Winner あなたのための物語
 主人公の偏執的な性格と何度も出てくる進行する病状の描写がエンターテインメントと呼ぶにはあまりにもユーモアのない陰々滅々としたものになっており、結末の自己観察と生死に対する一種の悟りが物語的な肝とはいえ、途中で投げ出したくなるのも確か。SFとしては技術的/哲学的議論が濃くて興趣を添えるが、息の抜きどころがない(いや小説を書くだけの機能を持たされた人工知性はユーモアか)という点はいかにも真面目な日本人作家の特性を思わせる(津田)

 多少バランスの悪いところもあり、冗長なところもあるが、本書は肉体に捕らわれた意識と、肉体を持たない意識の対比を、病気と死というきわめて肉体的・ハードウェア的な事象をもとに、さらにリセットの効かない一回性ということも含めて、実に生々しく赤裸々に描き出している。物語とは、読者の脳内で走るシミュレーションであり、そこで再生される意識体は、ある意味生きていて、独自の意識をもっているといえるのかも知れないと思える。傑作である(大野)

 死が迫った主人公は、禁じられた手法を用いて自身の脳内を書き直そうとする。「あなたのため」小説を書き続ける仮想人格(wanna be=want to be)は、主人公の死に向き合った怯えや諦観を見るうちに、全く新しい反応を返すようになる。著者はライトノベルからスタートし、本書を書き上げるまでに、ほぼ5年を費やしている。アイデアの源泉は既存の作家に由来するが、詳細な伏線(なぜ主人公が孤独なのか)や掘り下げた知能に対する言及(なぜITPで記述された知能に感性の平板化が生じるか)など、既存作品に対するアドバンテージは十分あるだろう。「あなたのための物語」とは結局なんだったのかを、最後に反芻してみるとさらに深みが増す(岡本)
Amazon『ハーモニー』(早川書房) 第2位 ハーモニー
 前作で抱かせた期待に十分応える仕上がりの一作。とはいえ全体的な印象はライトノベルな面もないではない。メインアイデアそのものは見事なセンス・オブ・ワンダーを持っているし、それをワンダーと感じさせるだけの物語の積み重ねがおこなわれてもいる。それでもライトノベル的に読めてしまうのは、ひとつに少女3人の物語が前面に出てきていること、またヒロインがあまりにもエンターテインメントのキャラ的な強さを発揮してしまうからだろう(津田)

 主人公たちは、少女のころから優しさ溢れる世界に息苦しさを感じていた。その一人、カリスマ的な魅力をもつ少女は、この社会に反抗してついに自殺してしまう。それから13年たち、その時いっしょに自殺を図りながら生き残ったもう一人の少女の前に、あの自殺した少女の影がふたたび現れ、世界を破滅へと導こうとする。という良くできた物語であり、自意識の問題を含め、人間存在の外部化がどこまで進むかといったSF的テーマも深く書き込まれた傑作である(大野)

 物語の最後はイーガン的(このアイデア自体は、別の作家も使っている)に終る。著者インタビュー(SFマガジン09年2月号)では、よりサイエンス寄りのイーガンに比べて、社会的インパクトに対する興味が強いことが語られている。本書では、誰もが死なない理想社会と、その矛盾(肉体を改変することによる、極度な均一社会)が明快に描き出されている点が一つのポイントになる(岡本)
Amazon『ユダヤ警官同盟(上)』(新潮社) 第3位 アンブロークン・アロー
 その言葉を如何に使うかという点でその確信の強さと練度の深さが感得される。言葉によって常に変容する作品世界の現実は、それでも混沌というよりは鏡面世界のような明晰さをイメージとして読者に提出する。そしてそのこと自体に神林長平が積み重ねてきた作品群の重みがあると思う(津田)

 本書では、機械知性である雪風のフィルターを通して見たヒトと機械とジャムの〈意識する世界〉が描かれていて、そこには連続した時間や固定した記憶もなく、様々な事象が多重に重ね合わされ、にもかかわらず、それは〈リアルな〉世界なのである。根本的にはイーガンや、今の多くのSF作家たちと同様なテーマを扱っていながら、何とも独特な視点であり、描き方である(大野)
Amazon『魚舟・獣舟』(光文社) 第4位(同率) 魚舟・獣舟
 上田早夕里『魚舟・獣舟』は思ったよりずっとよくできた短編集。特に表題作は30ページたらずというページ数からするとよくもここまで世界を定着させたことだなあ、と感心する出来映え。どの収録作も暗い印象をもたらす内容だが、単調な感じは残さないので作者の好調ぶりがうかがえる(津田)

 〈異形コレクション〉に載った作品が多いが、いずれも紛れもないSFである。特に表題作は、初出時にも印象的だったが、確かに傑作といっていい(帯に書かれたような「SF史に永遠に刻まれる大傑作!」というほど大げさなものではないが)。これまで読んだ著者の長編は、何だかもう一つ感が強かったのだけれど、本書の短篇にはそんな弱さはない。SF的で、幻想的で、ホラーで、ハードボイルドで、そして日常的でもある(大野)


 上田早夕里の特徴は、まず第一に描写の緻密さ/論理性にあるだろう。それに伴って、主人公たちは概ね内省的であり、感情が迸ることがない。たとえば、デビュー作『火星ダーク・バラード』で浅薄に描かれていた主人公が、大幅に改稿されて年齢相応の翳を持たされた点を見ても、著者の人物観が良く分かる。その点、直情型の多い最近のSFとは大きく異なっている(岡本)
Amazon『ユダヤ警官同盟(上)』(新潮社) 第4位(同率) ユダヤ警官同盟
 どう見たってよくできた警官もののミステリで、主人公が何回も気絶するのはいかがなものかとは思うものの、とにかく小説が上手い。それが改変歴史物ものの大きなターンテーブルの上で展開しているという、ある意味理想的なSFのひとつになっている。SFもミステリも広義のファンタシイとみれば、ユダヤ人社会の様々なディテールも強力な想像力によってもたらされたリアリズム趣向となる(津田)

 読みごたえのあるよくできた小説。だけど元のユダヤ文化の素養に欠けるぼくにはぜんぜんSFを読んだという手ごたえが味わえない。日本人が日本を舞台に同じやりかたで改変世界を作ったらその読後感はしっかりSFだった気がする。ということは、SFだと感じるためには、小説本体に内在している構造が射出される必要と同時に、その構造を受け止めてSF的感興という化学反応を引き出すためのキャッチャーミットを読み手の内部にもつ必要があるということになるのか?エンターテインメントとしては読んでよかった今年の収穫(水鏡子)

 著者のシェイボンは、代表作や、映画化作品も翻訳されているので、比較的紹介が進んでいる作家だ。しかし、メインストリームでもなく、SFでもミステリでもないという、まさにスリップストリームな作風のため、かえって印象が薄まってしまう傾向があった。本書は、設定を完全に並行世界ものにシフトした結果、ジャンルSFから大きな注目を集めた。自身ユダヤ人である作者は、もともとSFファンでもある。祖国を持たない民族が抱えるさまざまな矛盾を描くのに、アラスカ(アメリカ)のユダヤ自治区というSF的スキームは最適の素材だったのだろう(岡本)
Amazon『バレエ・メカニック』(早川書房) 第4位(同率) バレエ・メカニック
 基本設定は珍しくないものの話づくりは独特で、読みながら昔読んだ様々な作品(どちらかというとSFでないもの)を思い起こさせるシーンが数多く積み重ねられていて文学/衒学の効用が実感できる。特に表題となった第一部にそれを感じる。時間の経過を読者に知らせつつ近未来SF的な舞台に移ると軽くなる物語。そうか三島由紀夫の「豊饒の海」だな(津田)

 結局物語はSF的な解釈に回収されるのだが、本書はそういう一つの解釈におさまりきらないふくらみをもっている。現実とはなにか、われわれの生きる、テクノロジーに満ちた現実とは何か――SFはその切り口の一つとして力を発揮している。SFが、第3章のようなハードSF的なものであっても、幻想小説の一種だと思えるのは、そういう時である(大野)

  本書が描き出したものは一体何だったのか、著者はそのキーワードとして「ブラジャー」を挙げる(作中にも複数の言及がある)。それは、コルセットから女性を解放し、労働者としての作業性を大きく高める一方、性的抑圧の象徴ともなった。本書ではしかし、それは女性ではなく少年に対して倒錯的に用いられる。ジェンダー/親子といった本能的差異を逆転し、さまざまな抑圧と解放のパターンに踏み込んだ意欲作といえる(岡本)
Amazon『超弦領域』(東京創元社) 第7位 年刊日本SF傑作選 超弦領域
 
津原泰水「土の枕」は作者のいう通り全然SFじゃないが、高度成長期以前の近代日本の出来事がもはやファンタジーにしか見えないという意味では、ここに収録されても不思議はない。円城・伊藤が現代SFのエッジであることはこのアンソロジーからもよく分かる(津田)

 円城塔の書き下ろし「ムーンシャイン」はモンスター群という数学の概念を扱った数学SFといえるものだが、むしろ素数を擬人化した萌えSFとして読める。巨大数の素因数分解を直感的にできるようなサヴァン症候群があればとか、普通のSF的なアイデアもあるのだが、専門家でなければわからないような数に関するあれこれがたっぷりと含まれていて、小説として楽しむことはほとんど不可能に近いにもかかわらず、やっぱり面白い。この面白さもちょっと説明困難で、困ったものだ(大野)

 ジャンルとしての、とりわけ連作でなく本にもしづらい短編SFは、周辺領域の活性化のなかで存在理由を見失い、大半が「らしきもの」か習作にとどまっている、そんな先入感がいつごろからか身について、読む優先順位を下げてきた。SFのエッセンスをしっかり保持し、現在進化を果たした完成度の高い短編がこんなに書き継がれていたのだなあ。勘違いを反省し、これだけの作品を作者に書かせる「SFの底力」はどのあたりにあるのかと、じつはちょっと考えこんだりしている。とっつきのよさと配列で『虚構機関』、個々の作品の質で『超弦領域』に軍配をあげる(水鏡子)

 今回は長めの作品も多く、より個性が明瞭に感じられる(総ページ数も若干増えた)。中では、法月綸太郎の非常にロジカルなSF、円城塔の数学SFがもっとも先鋭的な印象を与え、小林泰三、藤野可織のホラーSFや堀晃、小川一水、伊藤計劃らのトラディショナルなSFが中核をなしている。しかし、これ以外の境界領域の諸作品が半数を占めたことで、全体に落差が生じ、読み手を飽かせない点を注目すべきだろう(岡本)
Amazon『カフェ・コッペリア』(早川書房) 第8位(同率) カフェ・コッペリア
 7篇を収録した短編集。それぞれ繋がりがあるわけではないが、いずれもほんの少し未来の、ごく日常的な身近な次元での科学技術と人間生活の関わり、もうすぐ先にある未来を扱っている。(中略)こうしてみると、科学技術と人間の未来という、まさにそのものずばりのSF小説ばかりである。とりわけ「笑い袋」などは、派手さはないものの、年間ベスト級の傑作だといっていい(大野)

 「いい人」たちの物語である。それが典型的に表れるのは「リラランラビラン」のようなお話で、普通ならば悪質な詐欺事件となる展開も、菅浩江の観点からはハッピーエンドに収まってしまう。仮の家族の中でわだかまりを抱えていそうな子供や、孤立している老人、後ろめたい秘密を持つ師匠でも、彼らを動かしているのは実は善意なのだと分かる。著者はチューリングテスト(ブラックボックス化された相手が、人間か機械かを見分ける手法)の考え方を逆説的に使っている。本書の人々にとって、話相手がAIなのか本物の人間なのかは重要ではない。その時々で、人の心に的確に応えてくれる存在こそを真の友だと思うからである(岡本)
Amazon『草祭』(新潮社) 第8位(同率) 草祭
 いずれも、はっきりしたオチがあるわけでもなく、幻想のままに、美しい、そして恐ろしい世界が描かれる。とにかく描写が美しい。そして懐かしく、心地よい。テーマとしては古川日出男の『家族』とも共通するものがあるのだが、あの熱さ、ダイナミックさはなく、ひたすら静かで、血圧も低い。お気に入りである(大野)

 「美奥」という架空の土地が舞台で、世界の成り立ちや、そこに住む男女の関わりが淡々と描かれている。登場人物は緩やかに関連しあうが、必ずしも共通しない。評者は過去の恒川作品を批判的に読んできた。読み取れる言葉/表現力(イメージ喚起力)と、描かれる異世界との乖離が大きく感じられ、ファンタジーとしての完成度に納得がいかないことが大きな理由だった。しかし、そういう問題点は、4年目の本書の中で大半解消されているようだ(岡本)
Amazon『プロバビリティ・ムーン』(早川書房) 第8位(同率) プロバビリティ・ムーン
 以前読んだ疫病モノの短編はとても良くできていた印象があったので読めるだろうとは思っていたが、読後感は物語作りのうまさを感じさせるものの伝統的アメリカSFの流れに則ったタイプだなあというものだった。文化人類学SFと超科学的テクノロジー・ミリタリーSFの大技とをかなり上手く組み合わせている(津田)

 何だかいろいろと聞いているので、あまり期待せずに読み始めたのだが、少なくともこの第一巻は面白い。人類学SFと、宇宙戦争と、ハードSF的なアイデアとがうまく絡んでいる。ハードSF的な部分は、夫であった故チャールズ・シェフィールドの影響が大きいように思える。太古の異星人が残した超科学の遺物とか、確率場とか、トンデモに近いのにぎりぎり科学的なセンスを感じさせるところが、いかにもシェフィールドらしいのだ(大野)
Amazon『アッチェレランド』(早川書房) 第8位(同率) アッチェレランド
 損得勘定や経済合理主義なんて人間の意識が生み出す幻想の一種に過ぎないと思っているし、ファミリー・クロニクルで本当に面白いものを書こうとするなら、ストロスのスタイルでは満足のいくものは書けないと思う。おまけにシンギュラリティはもう古いのか。と、ここまで貶しておいて、なんだけど、それでもストロスのSFは人なつこい面があって結構好きなのである(津田)

全体にスピード感、高揚感、オタクっぽさ、本格SFのスケール感もあって、ぼくとしては堪能できた。この手のSFは大好きです。いわゆるワイドスクリーン・バロックではないが、現代のワイドスクリーン・バロックはこんな感じになるのではないかな。〈シンギュラリティ〉とフェルミのパラドックスとの関係とかも、なるほどと思えた(大野)

 提唱者であるヴァーナー・ヴィンジらが想定した(シンギュラリティの)イメージは、多分に情報社会を意識したものだったのだが、ストロス自身が現場の人であることから、本書で描かれる展開には、情報用語がガジェット風にちりばめらられている。専門用語をSF用語のように使うことで、エキゾチックな効果を上げているわけだ。本書は、オープンソースと新しい経済概念の担い手である、主人公/2人のパートナー/娘/娘の子供/さらにその子供、という一族の物語でもある(岡本)
Amazon『モーフィー時計の午前零時』(国書刊行会) 第8位(同率) モーフィー時計の午前零時
 チェスを扱った短編集ということで、ちょっと引き気味だったのだけれど、読み終えるとかなり良い作品の集まったアンソロジーだった。エンターテインメント系の作家を集めた前半の作品群のトリを飾った若島訳で読むゼラズニイ「ユニコーン・ヴァリエーション」は、この作品群の中であっても異色な軽みがあって、かえってゼラズニイの良さを際だたせている(ひいき目?)。SFファンとしてはライバーやウルフが嬉しいけれど、ジュリアン・バーンズのチェス世界チャンピオン戦のリポートはその読ませる力の強さで群を抜くし、まったく聞いたこともない作家ティム・クラッペ「マスター・ヤコブソン」が前半の作品以上に印象的であることも編者若島正のアンソロジスト力を感じさせる(津田)

 テーブルゲームにも、さまざまな種類があるが、インド起源のチェスと将棋の深みには比類がない。チェスに憑かれた人種は、たいていが変人だ。しかし、論理的な思考能力ももちろん必要だが、極めて人間的な駆け引きが勝負を分けることもある。そのあたりのヴァリエーションは、本書でもさまざまに描き分けられている。チェスそのものがテーマの小説ではないため、専門用語を知らなくとも十分読める。ちょっとホラー風のライバー、機械に翻弄される人々を書いたウルフ、コントスキーは例のアイデアのチェス版、チェスプレイヤーの悲哀を描くカプラン辺りが優れているだろう(岡本)
Amazon『ペルディード・ストリート・ステーション』(早川書房) 第8位(同率) ペルディード・ストリート・ステーション
 割と地味な始まり方をしてゆっくりしたテンポで語られるのかと思っていたら、えーっ、そっちに展開するの、という驚きのある話。最初の内はいちいち巻頭の都市マップで登場人物の位置を確認しながら読んでいたのだけれど、サスペンスタッチになってからは、ひたすら物語を追うだけになった。しかし、新しい展開に入ってからのイメージのたたきつけ方は素晴らしく、スレイク・モスや異次元巨大蜘蛛などの描写が見事。主要登場人物の扱い方もこれでもかというくらいの非道さで、こういうのは最近のSFではめずらしい。終わりまで読んでもプロローグに対応するエピローグが物語世界の暗さを反映しつつわずかな希望が述べられるだけで、作品の色調が乱れることがない(津田)

 ものすごく分厚いハードカバーで、暗黒っぽい巨大都市が舞台で、みんながひどい目にあう過酷なストーリーにもかかわらず、何となくユーモラスで、ストーリーの中心は超強力なボス敵モンスター退治。主人公のマッド・サイエンティストや翼をもがれた鳥人、女ジャーナリストや盗賊らがパーティを組んで戦うのだ。その背後に悪い権力者や兵隊たち、暗黒街のボス、ゴミから生まれた人工知性などがからんで、ミニゲームもいっぱい。十分に堪能しました。とはいえ、予定調和的なストーリー展開をことごとく外し、お腹いっぱいになるような奇怪な〈ウィアード〉をたっぷりと盛り込んだ本書は、エンターテインメントとしてはかなり疲れる(大野)

  科学といっても、この世界の科学は既知のものとは微妙に異なる。動力源はスチーム、錬金術と魔術が交じり合う。科学者の恋人は甲虫の頭を持った半昆虫人。無数の異種族が登場し、それぞれ詳細な描写がされている(だから、これほどの大冊になる)。やがて、成長した幼虫が正体を現すと、都市は大混乱に巻き込まれていく。本書でも、マーヴィン・ピークと、オールディスの影響が見つかるが、同じことがムアコックの代表作『グロリアーナ』にも見られる。現代の英国作家にとって、これらが異世界描写の基本になることは間違いない。本書の場合、幼虫との騒動がメインストーリーとなる関係で、『マラキア…』ほど淡々としておらずリーダビリティも高いといえる(岡本)

 

 

 

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