内 輪   第232回

大野万紀


 FF外伝「光の4戦士」はクリア。例によってクリア後もゲームは続くのだけど、そういうのっておまけとしか思えないので、あんまり熱心にやる気が起こらない。FF13が話題ですが、ぼくはPS3はもっていないので関係なし。PS3を買ってまでやろうという気分でもないしね。キャラクターデザインが好みじゃないし。

 もう10年以上使っていたスカパーのチューナーが故障したので、スカパー直販のHDチューナーを買いました。このチューナーは地デジ機能もあったので、わが家もいきなり地デジ対応に。テレビは昔のブラウン管テレビなのですが、D端子でつなげばちゃんとHD対応していることがわかりました。確かに画質は全く違いますね。
 困ったのは、このチューナー、スカパーはもちろん地デジもコピーワンスなのです。HDDレコーダでは録画できるけれど、DVD-RAMへの移動しかできない。まあ、そういう仕様だから仕方ありませんが、色々と不便。とりあえず地デジはダビング10に対応してほしいなあ。

 先月も書いたけど、Twitterは面白い。でも時間を取られてしまうのが困りものです。フォローが増えると、パソ通のチャットとは次元の違う面白さがわかってきました。ぼく(@makioono)は相変わらずつぶやくだけですが、SFに限っても時おりすごいアイデアがぽつりと語られるのを目にしたりして、なかなかスリリングです。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『ファントマは哭く』 林譲治 ハヤカワSFシリーズJコレクション
 〈AADD〉シリーズの第3作。22世紀後半の太陽系。宇宙で生きる人々〈AADD〉との戦争に敗北した地球人のテロリストたちは、何とか彼らを出し抜いて存在感を示そうとする。一方、〈AADD〉の方でも、かつてファーストコンタクトに成功した地球外知的生命体ストリンガーとの困難な意思疎通に苦労を重ねている。そのストリンガーたちも二つの種族に分裂。そこへまた〈ファントマ〉という謎の、そしてとても危険な存在が現れる。さらにまた暗黒物質にからむ謎が登場し、いくつもの謎とストーリーとが互いにからみあいながら語られていく。テロリストが出てくるというのに派手なドラマはなくて、地味に淡々と話が進んでいくのだが、全体としては、まるでストリンガーとの意思疎通のように、何が起こっているのかはっきりわからないもどかしさがある。とりわけ、ネコもいっしょに乗り込んでいる地球人テロリストたちの宇宙船については、いったい何が目的なのやら、最後の方になるまでわからない。この連中の存在はシリアスなものなのか、笑っていいものなのか、中途半端な気分になってしまう。ところが後半、そしてほとんど終わりになって、これらがみんな落ち着くところに落ち着いていくんだなあ。不満解消。拍手せざるを得ない。

『算数宇宙の冒険 アリスメトリック!』 川端裕人 実業之日本社
 小学6年生3人組がリーマン予想をめぐってゼータ関数の世界で不思議の国のアリスみたいな冒険をする数学SF……という要約でいいのだろうか。数学宇宙ではなく算数宇宙なのは、主人公たちが小学生だからなのだろう。でも扱っているのは算数どころかゼータ関数の世界。このギャップはかなり厳しい。物語はほとんど小学生版涼宮ハルヒとして始まる。ハルヒにあたる不思議大好き少女ユーキ、幼なじみでユーキに振り回されるキョン役の空良(そら)、古泉にあたるハーフの少年アラン、そして高等数学が得意な謎の転校生である那由はもちろん長門だな(著者が意識していたかどうかは不明だが)。そして数学オリンピックならぬ町の神社で行われる算数宇宙杯への出場。その課題はリーマン予想を解くことなのだから大変だ。やがて不思議なできごとが起こり始め、ウサギやカメが暗躍し、ついには複素空間でのこの宇宙の存亡をかけた闘いに巻き込まれる。途中の展開はちょっと和風な「不思議の国のアリス」であり、宇宙の数学構造が互いに戦うのはイーガンの「ルミナス」みたいだが、読後感は中途半端な学習マンガ。素数が宇宙につながっていくあたりはいいのだが、やはりゼータ関数の零点の説明あたりで失速、小学生には無理だよなあ。オイラーの1+2+3+4+5…=-1/12なんてのは理解できるわけがない。解析接続は言葉だけ出てくるけど、説明なし。小説としてはもっと違うやり方があったんじゃないかと強く思う。ゼータ関数の話はとても面白いし、主人公たちもいい感じ(空良のじいちゃんがとてもいい)なんで、ちょっと扱い方を間違ったような気がする。惜しい小説だ。

『NOVA 1』 大森望編 河出文庫
 日本SFのオリジナルアンソロジー。11編が収録されている。編者は、〈異形〉シリーズを引き合いに出しながら、作者がこれぞSFと思うガチガチのSFを発表できる媒体となることを目指したという。ある意味ではそのとおりだと思うが、本書がガチガチの本格SFばかりかと言われると、多くの読者は首をひねるだろう。これは結果的な問題だろうが、テーマ的にかなり似通った作品が集中してしまった感もある。物語や文章が世界を変容させる、といったテーマ。そこにイーガン風のひねりが加わるとハードSFっぽくもなるし、文字通りにとらえると笑えるマンガっぽい話にもなる。その極北が牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」で、スプラッタ描写も凄いが、脚注弾なんて武器にはぶっとんだ。実は円城塔の「Beaver Weaver」も、飛浩隆の「自生の夢」(これは傑作)も、同じ構造の話である。いや斉藤直子「ゴルコンダ」もそうだ。それぞれずいぶんと雰囲気は違うけれど。また、イーガン風という意味では似ているが、こちらは量子力学的世界を前面に押し出したのが(これまた作者の得意技といえる)小林泰三「忘却の侵略」で、これと「黎明コンビニ」が本書の最強タッグだったといえよう。他には田中哲弥のひたすらぐちょぐちょな「隣人」、SFファンとしては涙なくしては読めない大感動もの(?)田中啓文「ガラスの地球を救え!」、そして宇宙探査機ファンにはやはり涙なくしては読めない藤田雅矢「エンゼルフレンチ」、どれも堪能できた。伊藤計劃の未完の「屍者の帝国」はスチームパンクの雰囲気が心地よく、続きが読めないのが惜しくてたまらない。とにかく良いアンソロジーには違いなく、個々の作品はいずれも読み応えがあるのだが、まとめて読むとちょっと印象が打ち消し合うようなところがあって、そこにもったいない感が漂う。いっそ〈異形〉のようなテーマアンソロジーにした方が、一冊の本としては良かったのかも知れない。


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