続・サンタロガ・バリア  (第97回)
津田文夫


 「はやぶさ」帰還の映像があまりに見事だったので、ちょっと感動してしまった。ワールドカップ快進撃で今や旧聞の話題になってしまったけれど、13日の朝は的川先生を案内して、わが家の近所をめぐり、昼からは先生の「はやぶさ」講演を聴いていたから、ま、リアリティが強かった。

 ようやくエマーソン・レイク・アンド・パウエルのライヴをレイクのセカンド・ソロ「マヌーヴァーズ」(SHM、紙ジャケ)と一緒に買った。EL&パウエルのライヴは、一部が、以前買ったレイクの蔵出しアルバムのオリジナル輸入盤に入っていた(今回「マヌーヴァーズ」と一緒に国内盤が出た)。その演奏はレイクがえらく元気だったから、ちょっと期待してた。実際に聴いてみると確かにレイクは元気だし、パウエルのドラムはドカンと鳴ってるし、エマーソンも頑張っているのだが、あんまり嬉しくない。なんでかナーと思うに、やはりパウエルのドラムとELPの楽曲が合ってないんだろうな。ELPの場合は、パーマーがエマーソンのメロを追いかけるように、後には先行するかのように叩いているけれど、パウエルはヘヴィネスが勝ったスタイルなので、ただでさえ滞りがちなELPの楽曲が流れていかない憾みがある。1曲だけ聴くと面白いのだけれど、長時間聴くのにはちょっと辛い。アナログ盤でしか持ってなかった「マヌーヴァーズ」は、記憶の中では、もうちょっとマシなアルバムだったような・・・。

 京都大学の先生だというので、ちょっと話題になった鳥羽森『密閉都市のトリニティ』は、改めてタイトルを見るとオヤジのラノベという印象がより強くなる。SF的な雰囲気はあるけれど、パンデミックの話が核なのかというとそっちよりもオヤジな主人公の性的言及の方が目立っているような感じがする。主人公が付き合う主な女性キャラ4人はアラフォーが2人と20代と10代で、その使い回しが主人公にとって非常に都合がいい造りになっている。10代なんか20年あまりかけた親子ドンブリである。この10代、肉体が男を気に入らないとセックスしようとしても相手を殺しちゃうという代物。当然主人公は最後に気に入られてゴールイン。50にも成ろうかというオヤジがそんなものを手に入れて本が読めなくなったって誰も同情しまっせン。文体がニュートラルなので嫌みはない。

 想像力の文学の藤谷治『ぼくらのひみつ』は、アイデアは使い古されているけど、物語を作る手際が新鮮。静止した時間での生活/物語を外因の説明無しに進めていくので、時間SF的には説得力ゼロだけれど、作者はSFを書いているつもりはないだろうから、無問題。では何を書いているのか、とかいうのは面倒くさいし、いつものように読んだ端から忘れている。で、ちょっと読み返してみたら、意外と文学的な言葉が飛び交っている。とすると、けっこう書き言葉の強度を試しているのかも。女の子と麻袋では麻袋が勝つのは最初から決まっていたことだったのか。

 ハヤカワ文庫JAのラノベ作家シリーズ(でいいのかな)は、まず木本雅彦『星の舞台からみてる』から。主人公をはじめとする主要キャラの扱いは上手くて、読みやすい。敵役はちょっと弱いが、大した問題ではない。問題は不在のメインキャラがいまひとつ立ち上がってこないところだろう。コンピュータ内のエージェントたちの場面は面白いけれど、キャラ立ちはこちらも弱い(まともすぎ)。なので不在のメインキャラが最後に語るヴィジョンがしっくりとこない。上品過ぎなのかなあ。

 大西科学『さよならペンギン』は、ちょっと柾梧郎の長命族物語を思わせるが、量子論的観察者の意味合いが強いようにも見える。しかし、物語はそのどちらからも遠いストーリー運びになっており、主人公とペンギンのキャラ立ちの良さにもかかわらず、物語としては非常に狭い世界しか構築できていない。幼い女の子でペンギンその他化け物役というキラーキャラは良くできていて魅力的なのにもったいない。敵役がもっと濃くて、もう少し主人公たちにちゃんと絡まないとクライマックスが支えられない。

 何で今頃とは、とてもいえない、出ただけでありがたいフィリップ・K・ディック『未来医師』。まあ、ディックにしては、オーソドックスな時間SFの楽しさだけしかないけれど、とりあえずの稼ぎを出す為の作品としては十分な面白さ。出だしはいかにもディック的いい加減さだし、未来世界のセコさもいつものディックだ。エースのダブル・ブック的作品のイメージ通りであるのもこの作品を出す価値がある。間違っても傑作にはならないし、ディックの作品としても水準以下だけれど、たとえばヴァンスの『ノパルガース』とか、落ち穂拾い的な作品も紹介することには意味がある。

 森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』は、ある意味モリミーを褒め称え続けたSFファンたちへのお礼みたいな作品。モリミーのことだから本格SFじゃなくて、オマージュSFだけれども、読む方にとってはとても嬉しい。いかにもモリミー的小学生の主人公が、「お姉さん」と「ペンギン(ホントはおっぱい)」に振り回されながら、そしてあり得ないほど知的な脇役たちと絡みながら、「(ソラリスの)海」によるクライマックス(まるで宮崎アニメ)へとなだれ込むけれど、メインは少年の胸の疼きだよね。「スター・キング/天界の王」を思い出すなあ、なんでだろ。


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