みだれめも 第207回

水鏡子


 1ヶ月、猿になっていたのでとりあえずアリスソフト『大帝国』から。

 最初はかなり失望していた。キャラクリが目にみえる効果を生まず、フェーズを消費した結果が単なるHシーンでしかなかったり、クリヤ特典ボーナスがしょぼくて2順目以降のゲームバランスが1順目と同じくらいつらかったり。(ヴァージョン・アップしてからは、最初にお魚がもらえるようになった。序盤はとんでもなく楽になる。)致命的だったのは、いくつか選択肢を変えてみたのに、3回続けて同じエンディングを迎えたこと。ていねいに進め過ぎたのが原因だった。ネットで攻略情報を調べて、7順目でやっと4つの結末をクリヤーして一息ついた。残りのエンディングはこの4つのバリエーションということで、一応シナリオの全体像はつかめた。でも性格的に全エンディングをこなさないと止まらない。それと水族館の完成と。全部片付くまでまるまる1ヶ月かかった。(ただし、おまけシナリオのキングコア篇を除く。)

 いいゲームである。第2次世界大戦の時局状況をベースにした、宇宙艦隊バトルシミュレーション。時局ネタから特撮・SFネタまで満載で意表を突かれるエピソードにもことかかない。最初に手にするお宝が「黄金の船 大大大」だったりする。
 惑星日本帝国が、ガメリカ合衆国の無理強い経済封鎖に業を煮やして宣戦布告、三国同盟を結び、大東亜共栄圏を標榜しながら、宇宙統一国家に邁進する話。これに別宇宙の怪物がからむ話(これが真エンド)や、事故で亡くなった妻がじつは生きていた話、宇宙の覇権をかけて同盟相手のドクツと戦う話が、マルチで展開される。大きな物語はそれぞれにごくごくありふれた定番だが、暗示や伏線をていねいにちりばめ、まったりと心地いい、てんこ盛りのエピソードを積み重ねながらその大きな物語に収束させる手際はあいかわらずで、ふくらんだ期待を期待通りきちんと充足させてくれる。各国それぞれのお家事情ドラマもよく練られている。しかしまあ国辱ネタが満載で輸出は無理だろうな。歴史ネタに即したちょっかいのかけ方は『戦国ランス』と同じだけれどなにせ相手が全世界。SFMで長山靖生が「愛國戦隊大日本」事件を取り上げているが世界中をなで斬りで「大日本」の比ではない。

 このゲーム、アリスソフトの歴代作品のなかで、『大悪司』と並ぶSF的興趣を得た。だけど、その理由は、じつは宇宙戦争とか人類宇宙創世の秘密とかいう部分ではない。前述の満載された国辱ネタ。共産主義、民主主義、ファシズム、帝国主義といったイデオロギーをオタク的知見で切り刻み、現実の歴史的事象をデフォルメしていく手つきにある。『大悪司』で占領国アメリカ・フェミニズムと戦う復員したやくざの若親分という基本設定に感動したのと同じで、そのあたり、現実との擦り合わせ、ある種のアクチュアリティが確保されていること、しかもそれが現実風刺の批判に向かわず、あくまで作品構築の柱、作品世界の充実に寄与するためだけに使用されていることが、ぼくにとってのSFとしての重要性として意識される部分であるのかもしれない。

 宇宙を舞台にした艦船対決シミュレーションRPG。戦闘の帰趨は計算可能でパズル的要素が強い。システムは思いっきり簡略化されているけど『大悪司』や『戦国ランス』よりちょっととっつきは悪い。それでも馴染めば思い切り楽しめるよくできたエンターテインメント。キングコア篇がなければ、万人にお勧めできる。

 キングコア編は各個体に歴代アメリカ大統領の名前をつけたアンドロ軍団が鬼畜凌辱の限りを尽くしながら世界を順々破壊していく裏シナリオ。心地いいエピソードを重ねた本篇に盛り込まなかった要素を集中して放り込んでいる。ゲームシステムはよくできているけれど、わたしゃ出だしで放棄した。

 最終的に300時間くらい『大帝国』に費やした。そんな事情で、ごめんなさい、ヴァンパイア・ロマンスは来月です。
読んだ本も5冊くらい。

 単発ものは『マルドゥック・フラグメンツ』と『グリムスペース』。
 感想もまた今度。


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