みだれめも 第210回

水鏡子


『このライトノベルがすごい!2012』
 年間ベストの第4位に『円環少女』があがっている。マニア系の協力者票、一般読者のWEB投票であるHP票、中高校生のモニター票の集計バランスを今年から変えた結果、急浮上したようだ。獲得点数170.8点中167.7点が協力者票というとんでもない偏り方。ちなみに協力者票ではぶっちぎりの第1位で2位の『ベン・トー』(130.8)3位の『丘ルトロジック』(110.8)に大差をつけている。『円環少女』の評価の高さと知名度の低さがよくわかる。ネットを覗くと案の定、協力者票の重用に対する非難があふれているが、あげつらわれる作品は全体順位7位『丘ルトロジック』9位『アイドライジング』10位『雨の日のアイリス』に集中していて『円環少女』への言及は意外と少ない。認められているというより、非難している人間が、あまり読んでいなくて言及できない気配が色濃かった。
 それにしてもベスト10中読んでいるのは『円環少女』と『ハルヒ』だけで、いかに旧作品、旧作家の消化に汲々しているかがよくわかる。

高野和明『ジェノサイド』中の上
ガチガチのオーソドックスなSFが、30万部のベストセラー。本のどこを開いても、SFのエの字も見当たらない。そしてたぶん多くの読者は最後までこれがオーソドックスなSFだとも思わずに国際謀略冒険小説として読んでいるのだろうと思う。それくらいSF的な設定が違和感なく受け入れられる日常感覚が蔓延している時代にあって、SFであることにどんな意味付けをしていけばいいのかわからなくなる。
まず、最初に言うべきことは非常に面白く読んだということ。そのうえで、かなり不満を感じたことを述べていきたい。
読んでるときは楽しんで、時には夢中になって読み終えて、でも話が薄っぺらいよなとか、咀嚼するうちいろいろ不満が出てくる小説がある。本書に関しては、そういう読後の不満はなかった。むしろ読みながら感じた不満の方が大きい。
重厚な、勉強の成果が垣間見える小説である。
それが、稠密な部分とそうでない部分での粗っぽいところとで小説の読み応えに強弱を作っている。普通の小説レベルで随所に勉強の跡が感じられたら、相対評価はワン・ランク落ちる代りに感想は満足寄りになったのだけど、稠密な部分が基調の作品になっただけに、粗い部分に不満が残った。あと、ブッシュとネオコンを模した大統領府の非道さを初め善玉悪玉の峻別も、作品の重厚基調を崩すものたりなさを感じた。最後のデウスエクスマキナも派手すぎた。
まあ、不満をあげつらいたくなるくらいいい小説であったわけであるのだけれど。

 今回はこの本だけ。ごめんなさい。『約束の箱舟』について書くつもりだったのだけど、『クジラのソラ』を読み始めたのでまとめて次号で。


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