マイ・フェバリット・ラファティ
大野万紀
早川書房「SFマガジン」02年8月号掲載
2002年8月1日発行
ある年代以上の古いSFファンでは、ラファティを知ったのはメリルの傑作選でという人が多いだろう。ぼくもその一人。そして「七日間の恐怖」の恐るべき子供たちこそ、最初に焼き付けられたラファティ体験そのものだ。ラファティの描く、自信たっぷりでとんでもない能力をもった子供たち。中でもお姉ちゃんの強烈なことときたら。「七日間の恐怖」のクラリッサの最後のせりふにぎゃふんといわない人はいないだろう。本当に効果満点なんだから。
子供たちの次は怪物たち。「町かどの穴」に出てくる怪物たちは、人間をむしゃむしゃとむさぼり食うような連中だが、ちょっと姿が違うだけの、ごく身近な存在なのだ。でもいかに親しげだといっても、手足をもぎ取られてかじられたら「ゼッキョー、ゼッキョー」というしかないね。宇宙論の得意な怪物とディオゲネスの呪文がとても印象的だ。
そして〈研究所〉の面々と、超絶コンピュータ(?)のエピクト。このシリーズはみんな大好きだが、「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」もその一編。こいつをただの歴史改変ものと思ってはいけない。世界というものがいかにあやふやな基盤の上に成り立っているのか、たぶんそうだろうなとは感じていても、こうはっきりと書かれると愕然としてしまう。よい子はマネをしないようにという教訓つき。でも9.11はきっと誰かがエピクトのマネをしたんだろうな。
ラファティの言葉の魔術について、もっといろいろ語ってみたい気はするが、ここにあげたような(あるいは他の人があげているような)作品を、どれでもいいから読んでいただけたら、それで充分だ。難しい分析をしなくても、誰にでもすぐわかる。面白くて奇々怪々で、すごく不思議な物語。そこには、あちら側への穴がぽっかりと開いているのだ。穴の向こうへ行ってしまったラファティだが、これらの物語を読むと、そこから彼の親しげな笑い声が聞こえてくるような気がするだろう。
2002年6月