R・A・ラファティ長編ガイドより −R・A・ラファティ生誕100年記念特集− 

 大野万紀

 早川書房「SFマガジン」14年12月号掲載
 2014年12月1日発行


■『宇宙舟歌』
 ラファティの処女長編の一冊にして、まさに神話的ホラ話。ホメロスの「オデュッセイア」を宇宙に持ち上げ、そのほかいろんな物語をつなぎあわせては、宇宙船乗りたちの、豪快で下品で、やたらとごっついホラ話を語る。
 千年戦争が終わり、われらがロードストラム船長とその一行が向かったのは、時のとまった快楽世界。次に訪れたのは、殺し合う巨人たちの星。さらには、暴走する牛の群れのような小惑星群を抜け、世界を支える偉丈夫と出会い、セイレーンの歌を聞き、羊たちの星では「しっぽがない」と唄い、魔女に動物に変えられ、ついには地獄の星へと、さまざまな冒険をくりひろげる。いやはや奇妙奇天烈、豪快千万、ごつい男たちのやることは無茶苦茶で、死ぬわ、食われるわ、ぺしゃんこになるわ……。そこにすかさず、天女マーガレットがするどいツッコミを入れるのだ。
 ラファティじいさんの語り口はもう楽しくてしかたがない。とりわけ〈どーん!〉ボタンがいい。まあ、リセットボタンみたいなものかな。これは大好きな一冊だ。

■『第四の館』
 ラファティの長編の最高傑作とも評される作品だが、神学的、哲学的背景がシリアスかつ複雑に描かれた、本気の作品である。ラファティがただの「気のいいホラ吹きおじさん」ではないことをつきつける(訳者あとがき)、そんな傑作だ。
 主人公は、過去からの再生者がこの国を支配しようとしているという妄想に取り憑かれた若き新聞記者フォーリー。彼はテレパシー的な脳波網によって世界の背後で繰り広げられる、神的支配を巡る闘争に関わっていく。まずは〈収穫者〉たち。一番身近にいるが、騒がしく危険な連中だ。象徴は蛇。〈再帰者〉たちは、ヒキガエル。太古の耳をもつとらえ所のない連中だ。ひっそりと隠れて古代の帝国を保守する〈パトリック〉はアナグマ。そして最も闘争的で武闘派の〈簒奪者〉は、巣立ち前の鷹である。
 こういった精神たちが戦いあい、殺し合う(まあ殺しても死ぬような連中じゃないが)。その中をフォーリーは聖別された愚かものとして、また愛する者を守るものとして、力強く歩み、問いかけていく。はたして第四の館は開かれたのかと……。

 2014年10月


トップページへ戻る 文書館へ戻る