「きょうもまた満ちたりた日を」(ジョン・ヴァーリイ)解説
大野万紀
早川書房「SFマガジン」98年1月号掲載
1998年1月1日発行
同じ一日を何度も何度も繰り返す……といえば、最近話題の長編小説を思い浮かべる人も多いでしょう。しかしこの小説の主人公の場合、それとはまったく逆の状況に置かれてしまいます。実際これはショックでしょうね。自分の内側を流れる時間と外側を流れていく時間。その同期が狂うとき、そこにSF的な興味が生まれます。しかし、本人にとっては……いずれにせよ恐ろしい話でしょう。けれども、それだけで終わらないのがヴァーリイです。そういう時間テーマの話かと思っていると、突然この世界がとんでもない世界だったとわかるのです。まるでラファティの描くような、変容した世界。しかし、それは社会から疎外された主人公にとって、救済となるものでしょう。
74年に「ピクニック・オン・ニアサイド」でデビューしたジョン・ヴァーリイは、長編『へびつかい座ホットライン』(77)、短編集『残像』(78)、『バービーはなぜ殺される』(80)に収録された〈八世界{エイトワールド}〉シリーズで、70年代を代表するSF作家の一人となりました。短編集『ブルー・シャンペン』(86)、最新長編『スチール・ビーチ』(92)などの作品にも〈八世界〉と関連のある未来世界が出てきます。いずれも太陽系の諸世界を舞台に、性転換、クローン、身体改造などが当たり前となった時代の、普通の人々の生活を描いた作品でした。きらびやかな印象のあるヴァーリイですが、一方ではヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞に輝いた「残像」や「PRESS ENTER■」のように、障害を持つ人々や社会から疎外された人々に共感をよせる作品を、暗く苦みの残る、ややグロテスクなタッチで描いています。
本編でも、主人公は日常社会からはじき飛ばされた不適応者、一種の障害者として扱われています。80年代以降のヴァーリイの関心は、常にこのようなマイノリティへの共感と共にあるようです。
初出TWILIGHT ZONE 89年6月号
1997年11月
「きょうもまた満ちたりた日を」
ジョン・ヴァーリイ
公手成幸訳
Just Another Perfect Day (1989) by John Varley